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あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

変わるメインバンク

2025/12/01

 2025年9月9日付け日本経済新聞に「メイン銀行の座をネット銀行が狙う」という記事が掲載されていました。記事によれば、ネット銀行をメインバンクとする企業が2025年3月末で7903社と前年比41%増加、12年前に比べると12倍に増えたということです。

 これまでネット銀行は個人を主要ターゲットにしてきたのですが、金利ある世界が到来し、「外に逃げにくい預金を獲得するために」、決済機能等の法人向けサービスを充実し、その効果が出てきているとのことです。今後もネット銀行はメガバンクや地銀等の既存銀行が牙城とする中小企業分野に攻勢を掛けていく意向です。ネット銀行はネット空間における利便性や手数料の点において、既存銀行に比べると一日の長があり、企業がネット銀行を選択しようとするのも無理からぬことのような気がします。

 こうした傾向が広がると、ネット銀行は既存の銀行のテリトリーを侵食していき、既存銀行にとっては相当な脅威になるのでしょうか。あるいは、既存銀行はこれまでの地位を守れるのでしょうか。その分岐点は「メインバンク」という言葉に込められた概念の違いにあるように思います。

 

メインバンクの機能

 この記事からイメージされるメインバンクは預金や貸出、決済といった数値で表現される金融機能に限定されます。他方、やや古い時代の銀行を知っている人間にとって想起するメインバンクは数値だけでは表現できないもっと定性的なイメージがより重要です。つまり、銀行の取引先企業に対する向き合い方が問われます。そこにおけるメインバンクは、成長局面でも停滞局面でも企業に寄り添うことが求められます。特にメインバンクとして決定的に重要だと考えられていたのは、取引先企業が落ち込んだときの支援姿勢でした。

 不振に陥った企業が雇用責任や地域における存在感などから救済しなければならないと判断したとき、銀行にある程度の負担が生じても、その企業の逆境を助ける覚悟がメインバンクには期待されます。こうした覚悟はネット銀行には難しく、店舗を現場に抱え、企業と直に接している既存の銀行にしかできない役割だと思われます。ただ、次のような理由により、その機能発揮が徐々に難しくなっているのも事実です。

 

難しくなった企業支援

 まず、人材育成の問題があります。旧来型のメインバンク機能を発揮するには、銀行員は普段から取引先企業を実地に深く広く把握しておかなければなりません。単なる財務諸表的数値に止まらず、経営者の経営能力や性格、企業の技術力、社員の資質といったようなことを総合的に知っておく必要があるのです。そのような人材は一朝一夕には育ちません。昔の銀行にはそうした銀行員を育成する土壌があったのですが、今の銀行は、目前の目標数値の達成に追われ、そうした余裕がないように思われます。

 次に、経営環境の変化も見過ごせません。メガバンクや地方銀行の多くが上場していますから、株主の意向は重要です。以前の株主は割と長期的視点から株式を保有していましたが、近年の株主は短期的な利益向上を求めています。その点を所有株式に生じる含み益の使い方を例に考えてみます。

 銀行が不振企業を支援しようとするとき、一時的に銀行に負担が生じる場合があります。以前はそうした場合の財源として、銀行が所有している株式に生じている含み益を吐き出すということがありました。つまり、含み益の長期保有が是認されており、企業支援も行いやすかったのです。ところが、最近の株主(特に海外勢を中心としたアクティビスト)は、含み益の早期実現とそれを財源とした株主還元を求めており、短期志向を強めています。

 このように考えると、不振企業のメインバンクによる救済は以前より難しくなってきているように思われます。

 

銀行も企業も選択する

 冒頭の新聞記事にあるようなネット銀行の台頭には、旧来のメインバンク機能を発揮しにくくなったこうした事情を反映しているような気もします。企業側も既存の銀行に旧来のメインバンク機能を期待できないとするなら、ネット銀行を主力銀行とすることにためらいがなくなってきているのかもしれません。

 ただ、依然として銀行に旧来型のメインバンク機能を期待する企業は存在し続けることも確かです。純粋に金融機能に特化したネット銀行の方向を目指すのか、旧来のメインバンク機能を重視した銀行を目指すのか、銀行自身の方向性が問われると同時に、企業側もどちらの銀行が自社にふさわしいのか、選択する時代になっているように思います。

 

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