昨年後半以降、国債の利回り(長期金利)が急上昇しています。40年の超長期国債の利回りは一時4%を超え、主力の10年国債も2%台半ばに迫り、27年振りの水準に達しました。日銀のイールドカーブコントロール等により0%近辺で抑え込んでいた時期と比べれば雲泥の差です。国債の金利上昇はその波及効果が大きく、バブル崩壊後低金利状況に慣れきった日本経済に深刻な打撃を与えることが懸念されます。
良い金利上昇と悪い金利上昇
金利はマネーの価格です。価格は結局、需要と供給のバランスで決まりますから、マネーの供給に比べて需要が多ければ金利は上昇し、逆に供給より需要が少なければ下落します。そして、低金利が続けば資金需要が活性化し、金利は上昇するというのが、それまでの常識的パターンでした。ところが、日本ではバブル崩壊後、マネーは潤沢にあるのに投資や消費が一向に盛り上がらず、低金利状態が継続していました。いわば日本の低金利は日本経済低迷の象徴ともいえました。ですから、金利の上昇はデフレからの脱却、つまり日本経済復活の兆しとなるという見方もありました。
しかし、今回の国債の金利(利回り)上昇は日本経済復活のきっかけとなるものではありません。というのは、金利上昇に至るストーリーが逆だからです。望ましい金利上昇は、経済が回復し、民間の投資と消費が活性化し、資金需要が旺盛になり、国債の金利が上昇するというストーリーです。しかし、今回の金利上昇は日本全体から国債へというルートではなく、日本経済は回復しないまま国債金利が先に上がり出したからです。なぜ、国債金利が先行して上昇したのでしょうか。異次元金融緩和の終了に伴い、日銀の国債購入量が減少したというのも大きな要因ではあるのですが、より注目すべきは日本の財政状態の悪化懸念です。
銀行が貸し出しを行えば、全部を回収できるわけではなく、一定程度の貸倒れは不可避です。貸倒リスクが高い貸出先への融資は敬遠されますから、融資を集めるためには高い金利設定が必要になります。当初、貸倒リスクが低いと評価し、低い金利が設定されていても、その後の状況変化でリスクが高いと判断されれば、金利は高くなります。今回の金利上昇はその機能が発動された結果です。
政権交代後、大型補正予算が組まれ、総選挙ではほとんどの政党が消費減税を掲げ、アメリカからは強烈な防衛費の増額が要請され、そして高市政権は「責任ある積極財政」の旗印の下、財政支出の拡大が見込まれます。これらは必然的に国債発行の増大を予想させます。現状でも不安が大きい日本の財政状況をさらに悪化させることが懸念されるのです。国債を購入する(信用を供与する)側としてはそうした財政状態の悪化懸念を金利に織り込まなければ信用供与できないということで、今回の金利上昇がもたらされたと考えることができます。
国債金利上昇が与える影響
一般企業の信用状態悪化による金利上昇の波及は、せいぜいその企業の周辺にとどまります。国債金利上昇の影響も国関連に限られるのであれば、影響は限定的です。しかし、国債はその国の金融商品の基盤であるため、国債金利の上昇はその他の金利に広く波及することを忘れてはなりません。その結果、次のように、直接的に負担増をかぶる国は当然のこととして、個人、企業にも相当な打撃を与えます。
まず、国債金利の上昇は国債利払い費の増額を招き、国家財政を逼迫させます。日本の場合は、国債発行残高が大きいだけに、金利上昇の利払い費に与える影響は大きくなります。最悪の場合、利払い費支払いのために新たな国債発行をしなければならなくなり、国債発行の増額に歯止めがかからなくなる恐れがあります。
次に、住宅ローン金利の上昇による住宅ローン利用者個人への負担増も懸念されます。まず、長期国債の金利にほぼ連動して動く固定制の金利が上昇します。固定制の金利上昇の影響は新規借入者に限られますから、限定的です。ただ、金利上昇が長期化すれば、銀行の短期プライムレートの引き上げに、そして変動制の金利上昇につながります。変動制の金利上昇は新規借入者だけではなく、既存の住宅ローンにも及びます。住宅ローンは変動制で借入れている人が8割以上だといわれています。そして、低金利を前提に借入額を目一杯にしている人が多いですから、その影響は甚大です。返済原資となる給料が上がればいいのですが、景気が停滞したままで、給料が回復しなければ、住宅ローン利用者の困窮度は高まることが予想されます。
また、長期国債の金利上昇は早晩、銀行の企業向け貸出金利の上昇を招きます。銀行からの借り入れに頼り、命脈を保っている企業は存亡の縁に立たされます。また、国の財政状態の悪化が深刻化すれば、格付の引き下げという事態も予想されます。そうなると、海外の調達金利の上昇にもつながりますから、輸出型大企業を含めた企業全体に波及します。
「責任ある積極財政」で経済が上向けばいいのですが、思惑通りにいかないと、景気が悪いまま金利だけが上昇するという事態になりかねません。金利上昇は、国家財政、住宅ローン利用者、信用状態の悪い企業等にかなりの悪影響を与えることになります。
重大な岐路
経済回復が先行し、経済全体が温まる中での金利上昇であれば、経済活性化の中で消化することができます。しかし、国の財政状態悪化を起点とする金利上昇は、経済を弱体化させる危険性が高いのです。財政規律は、単に国家財政にとどまらず、その波及効果が広範に拡大し、経済に与えるダメージが大きいからこそ大切なのです。
アベノミクスを推進したリフレ派が日本の財政状態は言われるほど悪くない、という論拠の一つに挙げていたのが国債金利の低さでした。金利が低くても国債が発行できるということはマーケットが受け入れているということであり、国債にはまだ発行余力があるということだという主張です。その国債金利が上がりだしたのです。
この金利上昇をマーケットからの重大な警告と受け止め、財政規律の回復に取り組むのか、あるいは軽視して、あくまで経済回復を目指し、積極財政に突き進むのか、日本経済は今、重大な岐路にさしかかっているように思います。