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あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

DD費用の損金算入を認める司法判断

岡宮 春輝
2026/04/13

令和8年2月18日、東京地裁は、M&Aのデューデリジェンス(DD)費用の損金算入を認める司法判断を下しました(東京地裁令和8年2月18日判決。以下「本判決」)。

法人税法上、有価証券の取得価額は、有価証券の購入代価だけでなく、購入代価に購入手数料やその有価証券の購入のために要した費用を加算した金額となります(法人税法施行令119①一)。M&Aで株式を取得する際に、DD費用がこの「有価証券の購入のために要した費用」に該当するかどうかが実務上問題となっています。該当すれば株式の取得価額となり、そうでなければ損金となることから、その該当性の判断によって損益や法人税等に大きな影響を与えることがあります。

 

■従来の実務

これまでは、意思決定前に発生したDD費用であるものの、部内レベル等でそのDDの対象とした企業を買収先として絞って(特定して)いるケースでは、DD費用は実態として「株式の購入が確定している場合の費用」に該当するものと認定され、「購入のために要した附随費用」として株式の取得価額に含めるケースがあるとされていました[i]。

 

■本判決が示した判断の枠組み

本判決では、「その有価証券の購入のために要した費用」を次のように解釈しています。

①特定の有価証券の購入に向けられた費用

②当該費用が客観的に必要とされるもの

購入に向けられた費用の例としては、特定の有価証券を購入することにつき相当程度の蓋然性がある状況下において、買収価格決定の参考とするために行われた業務に係る費用が挙げられています。

一方で、特定の対象会社を買収するか否か、買収するとしてもいかなるM&Aの手法によるかが決まっていない段階で、これらの点についての判断材料とするために行われた業務の費用については、特定の有価証券の購入に向けられた費用とはいえないと解されています。

前述の①②に該当するかを判断するにあたっては、例えば以下の諸事情を踏まえて検討するのが相当であると示されています。

・支出の原因となる契約又は契約に基づく個々の業務の目的及び内容

・取引に向けた一連の過程における契約ないし業務の位置付け

・これらの履行時点における株式購入の蓋然性の程度

そして、この判断にあたっては、履行時点において、「客観的にみて株式購入の蓋然性が相当程度高まったと認められる程度に当該株式の購入の不確実性が解消することを要すると解すべき」とされています。

なお、不確実性が解消したか否かは、会社の構成や意思決定の実情、株式購入の検討経緯等に照らして実質的に判断すべきであり、法人の意思決定機関による正式な意思決定までを要するものではないとされています。

 

■本判決での判断結果

このような考え方に基づき、本判決の事案(本事案)では、DD費用等の損金性について以下のように判断されました(本判決の対象となった2件のM&A案件を集約して記載。あくまで本事案における判断結果であるため、個別事案の前提条件により判断結果が異なる可能性がある点にご留意ください)。



ちなみに、本事案の法務DDには、株式譲渡契約書のレビューが含まれていました。このレビューは、DDの報告書の作成後に行われたものであるため、株式の購入に向けられた費用とみる余地があり得るとされました。しかし、DD時の担当部長の心ない発言が気になったなどとして急遽トップ面談が実施されるなど、破談となる蓋然性が一定程度あったものとうかがわれ、当該レビューは、このような不確実な状況下で開始された一連の業務ということができ、株式の購入に向けられた費用であるとはいえないと判断されました。

 

■むすびに

このように、DD費用の取扱いについて判断の枠組みが示されたものの、株式購入の蓋然性が相当程度高まったと認められる程度に株式購入の不確実性が解消したかについて、誰がどのように判断するかなど、実務上の対応としては依然として課題が残っていると思われます。

M&Aに関連する費用は多額に上るケースが多く、損金性が否認された場合、法人税やその附帯税が大きな負担となることもあります。このような不測の事態を未然に防ぐためにも、本判決の考え方に沿いながら、M&Aの過程で生じる各費用に対して、交渉の経緯、社内の検討状況、実質的な意思決定の状況等を踏まえて、個別に検討を行いその記録を残しておくなど、丁寧な対応が求められると考えられます。

なお、本判決については、国側が東京高裁に控訴しているため、今後の東京高裁の判断を注視していく必要があります。


[i] 税務通信3709号(2022年6月27日)

執筆者

岡宮 春輝Haruki Okamiya

マネージャー・公認会計士

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