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あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

市場価格の需給調整機能を阻害するガソリン補助金

井口 秀昭
2026/05/01

 中東情勢の混乱に伴うホルムズ海峡の実質的封鎖の影響で、原油価格が上昇し、ガソリン価格が急騰しています。そのため、政府は店頭価格を170円程度に抑えるべくガソリン価格に補助金を支給しています。ガソリン価格の急騰は国民生活に与える影響が大きいので、ガソリン補助金は家計の助けになることは確かなのですが、経済学的見地からは決して好ましい政策ではないと、多くの経済学者は批判しています。その主たる理由はこうした補助金は市場価格の需給調整機能を阻害するからです。

 

価格の需給調整機能

 市場の重要な役割は市場価格を通して資源配分を最適化することにあります。ある商品の供給量が少なければ価格が上昇し、需要が減少することで需給がバランスします。逆に商品供給量が多ければ、価格が下落し、需要が増加し需給バランスが回復します。

 現在、ガソリン価格が高くなっているのは、ホルムズ海峡の実質的封鎖に伴う供給量の減少が原因です。この供給不足がある程度長期化するのであれば、需要を抑えることが求められますから、市場価格は上昇しなければなりません。市場価格が上昇すれば、燃費の悪い大型車のレジャー等の不要不急の支出は抑えられ、車の利用は買い物等の比較的緊急度の高い外出が中心になるでしょうから、需要は抑制されます。これが市場価格による需給調整機能です。にもかかわらず、ここに補助金を支給しガソリンの市場価格を下げてしまえば、需要抑制効果が期待できなくなり、需給バランスは崩れたまま持続してしまいます。

 それを補完する意味もあり、政府は石油備蓄を放出しているのでしょうが、非常時の備えである備蓄を放出しながら、ガソリン補助金を支給するのは、市場に誤った情報を伝えることになり、望ましくない資源配分をもたらす危険性があります。

 かつてのオイルショックの時のようなパニックを起こさないようにしたい、あるいは、経済成長率を落としたくない、という政府側の意図も分からないではないのですが、供給不足が長期的に継続するとすればいずれ限界に突き当たります。そうなると、強制割り当てのような形で需要を抑えなければならなくなります。そうした強制的な需要削減をできるだけ避けるために、市場価格を通した需要抑制を早期に開始することが必要なのではないかと思います。

 

財政負担の拡大

 また、補助金支給のために必要となる財政支出の増大も大きな問題です。補助金支給はガソリン全体に対し、全国民向けに行われますから、その支給額は巨額になります。当初の目論見ではガソリン1リットル当たり30円程度で月3000億円ほどの支出を見込んでいたようです。ただ、原油価格の高騰が想定を上回ったり、原油輸入量の縮小が長引いたりすれば、支給額は予定以上に膨らみ財政を圧迫します。日本の財政状況は政府債務の対GDP比率が200%を超え、世界最悪のレベルにあることに加え、最近は長期金利も上昇傾向にありますから、この財政負担の問題も軽視できません。

 

最悪に備える

 経済学的に政府が市場価格に介入することが是認されるのは、市場で形成される価格が異常かつ短期間である場合です。異常であれば、その価格を是正する必要がありますし、また短期間であれば、財政にかかる負担もそれほどでもないからです。しかし、今回のガソリン価格の高騰は異常かもしれませんが、今の国際情勢を鑑みれば、短期間に終了するとは思えません。

 経済学的に望ましいのは、ガソリン価格の決定は市場に任せ、他方でガソリン価格高騰により、生活が困窮する人々向けに直接生活支援する政策です。その結果、市場価格が高くなれば、ガソリンに対する需要は抑制され、消費を抑えることができます。また、ガソリン価格に対する補助金は全国民向けのバラマキ型救済であり、支援を必要としない富裕層も含め広く恩恵が及び、政府支出額は巨額になりますが、支援を生活困窮者に限定すれば、支援効果を大きくしながら、政府支出額を抑えることができます。

 石油及びナフサ等の石油関連商品は現代生活の基盤を形成しており、その一部でも枯渇すれば、社会全体に大きな混乱を引き起こします。危機管理の重要なポイントは「最悪」に備えることです。この場合の最悪は石油の途絶です。中東情勢が益々混迷を深める今、政府に求められるのは、楽観的な予想に基づく安心の供与ではなく、買い占め等のパニックを抑えつつも、最悪の場合に備え、石油備蓄放出や財政支出を抑えることだと思います。そのためにも私は市場価格の需給調整機能を活用して、資源の最適配分を行うことが望ましいと考えます。

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