2月の総選挙で圧勝して、これから本格的に始まる高市政権の経済政策が注目されています。高市経済政策のキーポイントは「投資」にあり、その骨子は次のようにまとめることができます。
「国内投資の不足が日本経済低迷の原因であり、積極的な投資こそが成長のエンジンになる。だから、財政出動をためらうべきではなく、政府が『責任ある積極財政』に基づき投資分野を開拓し、民間投資を誘導することにより、経済成長を高める」
この構想通り、経済が動けばいいのですが、当然のことではありますが、うまくいかない可能性もあります。私にはこのシナリオに基づく経済成長論には、その基本的発想部分において納得しがたい部分があります。本稿では因果関係と資源配分を決定する主体の問題について考えたいと思います。
1.因果関係は正しいのか
日本経済はバブル崩壊以後不振を続け、低迷しています。一方、企業の内部留保は600兆円以上あるにもかかわらずおカネが投資に向かっていないことも事実です。ですから、「経済の低迷」と「投資不足」が日本経済に存在していることは間違いなく、両者に何らかの相関関係があるらしいことも想像できます。しかし、両者の因果関係については、政権が考えるように、そう明確ではないような気がします。
高市総理は「投資不足が日本経済低迷の原因である」と直線的に考えているようですが、私には因果関係が逆のような気がします。つまり、どちらかといえば「日本経済が低迷しているから投資が増えず、その結果内部留保が貯まる」という構図です。社会科学ではそれぞれの事象が相互に影響し合い、自然科学のように厳密に因果関係を特定することは難しいので、因果関係の特定にこれ以上深入りしませんが、ただ、因果関係をどのように捉えるかで解決に至る処方箋が異なり、難易度も変わってくることは指摘しておきたいと思います。
日本経済低迷の原因を投資不足とすると話は簡単です。投資はその意思と財源があればできるからです。投資に際して多く問題となるのは、投資するための財源が不足する場合です。しかし、今の日本では民間企業には内部留保が大量にありますし、政府の財源については、議論はありますが、現政権のスタンスからすれば、国債を発行すればいいので、資金調達に懸念はありません。あとは次に述べるように、そのカネを効率的な案件に投資すれば解決することになります。
しかし、因果関係が逆となり、日本経済が低迷しているから投資が増えないとすれば、解決は格段に難しくなります。日本経済低迷の原因を他に探索しなければなりません。それは人口減少や少子高齢化かもしれないし、労働力不足や雇用規制、または新産業を興せない教育、あるいは既得権益と結びついた様々な規制の問題なのかもしれません。いずれも日本経済の構造に関わる深刻な課題ばかりであり、一朝一夕に解決するものではなく、解決しようとしても長期間かかることは間違いなく、だからこそ、経済低迷が長引いているのだと思われます。
投資不足と経済低迷の因果関係の解明は簡単ではないのですが、経済回復に至る道程を容易で簡明にするために、因果関係を特定しているのではないかということを危惧しています。
2.資源配分において政府と民間(市場)のどちらが賢いか
ここでは因果関係の特定の問題はひとまず脇に置き、現政権が想定するように投資不足が原因で経済が低迷するとして、話を前に進めましょう。すると、今度はカネをどこに振り向けるかの問題に直面します。今回の経済戦略では投資分野を政府が提示し、補助金などで政府が率先して投資し、民間投資を誘導するような構想になっており、政府主導の戦略になっています。しかし、政府はそんなに賢いのでしょうか。つまり、より効率的な資源配分を決めることができるのは政府なのか、あるいは民間、すなわち市場の価格決定機能なのかの問題です。
資本主義が未成熟であれば、明治時代の「富国強兵」における殖産興業や、第二次大戦後の「傾斜生産方式」における重化学工業育成などのように、政府主導で資源配分を行うことはある意味合理的でした。しかし、資本主義が成熟すれば、市場が適正に資源配分を行えるようになるはずです。ですから、発達した資本主義国では政府の役割はマクロの経済対策が主となり、ミクロの資源配分は市場の価格決定機能にできるだけ任せるというのが標準的なスタイルでした。ただ、資本主義の最先進国とされるアメリカでも、トランプ政権は民間投資に盛んに口を出していますから、その常識が揺らいでいるのも確かですが、やはり私は市場機能を重視すべきだと考えています。
私は「経済低迷の原因を投資不足と捉え、政府の指定する重点戦略分野に官民こぞって大胆に投資すれば、日本経済は回復する」というストーリーは余りに簡明すぎて、どうしても違和感が残ります。その違和感が正しければ、「責任ある積極財政」は単なる「放漫財政」に堕し、金融マーケットから厳しくとがめられる危険性があると思います。