特定の事業の売却を考える際に、その手法の一つとして会社分割があります。このコラムでは、会社分割の基本的な内容から、M&Aにおける分社型分割と分割型分割の活用法について解説します。
■特定の事業だけを売却したい場合に活用
会社分割は、株式会社または合同会社を分割元の会社として、その事業に関する権利義務の全部または一部を、他の会社(既存の会社)または分割により設立する会社(新設会社)に包括的に承継させる組織再編の手法です。分割元の会社を分割会社、分割により事業を承継する会社を分割承継会社と呼びます。
M&Aにおいて、会社全体の売却ではなく、「特定の事業だけを売却したい」というケースは少なくありません。例えば、不動産賃貸事業は残したまま、それ以外の事業を譲渡したいといったことがあります。このような場面で、会社分割は非常に有力な選択肢となります。
■分社型分割と分割型分割
会社分割は、分割対価として交付される株式の割当先によって、分社型分割・分割型分割に分けられます。この違いにより、M&Aにおける事業売却後の資金の流れに決定的な違いが生じます。
分社型分割は、会社分割をした際に分割対価としての分割承継会社株式が、分割会社に割当てられます。一方、分割型分割は、分割承継会社株式が、最終的に分割会社の株主に割当てられます。
分割後、分社型分割は、分割会社と分割承継会社が親子関係となる「タテ」の分割であり、
分割型分割は、分割会社と分割承継会社が、分割会社の株主の下、兄弟関係となる「ヨコ」の分割であるといえます。
この「タテ」と「ヨコ」の違いは、会社分割後のM&Aの対価を「誰が受け取るのか」という点に直結し、税務上の影響も大きく異なります。
会社分割後のM&Aによる事業の売却
会社分割を活用したM&Aでは、通常、会社分割後の分割承継会社株式を譲渡することで、特定の事業を売却します(分割型分割の場合は分割会社株式を譲渡することもあります)。
◎「タテ」の分割
「タテ」の分割の場合、分割承継会社株式の譲渡対価は、分割会社が受け取ります。これにより生じた譲渡益は、分割会社の所得を構成して法人税等が課されます(東京都の外形標準課税対象外法人の場合は約35%程度)。分割会社は、譲渡対価を原資に、既存事業や新規事業のためにさらなる投資を行うこともできますし、借入金を返済することもあります。株主に配当することもできますが、株主が個人の場合は、非上場株式の配当を前提とすると、配当所得として20.42%が源泉徴収され、すべて総合課税となります。総合課税では、課税対象金額が高くなるにつれて税率も高くなる累進課税が適用されます(配当控除の制度あり)。株主が法人の場合、一定の要件をみたしているときは、配当額の全部または一部が益金不算入となります。
◎「ヨコ」の分割
「ヨコ」の分割の場合、分割承継会社株式または分割会社株式の譲渡対価は、分割会社の株主が直接受け取ります。これにより生じた譲渡益は、分割会社の株主が個人の場合、分離課税の対象となり、株式の譲渡所得に対して、所得税と住民税を合わせて20.315%の税率で課税が完結します(仮に所得が株式の譲渡所得のみであった場合、株式譲渡所得が10 億円を超えると追加納税が発生)。分割会社の株主が法人の場合、譲渡益は分割会社の株主である法人の所得を構成して法人税等が課されます。例えば、分割会社の株主が個人で資金を必要としているようなケースでは、譲渡対価を直接受け取ることができ、かつ、税率も低く抑えることができる「ヨコ」の分割が選ばれることがあります。
■実行時の注意点
会社分割は会社の組織構造に抜本的な変化をもたらすため、分割後の事業運営や資金繰りへの影響について、必ず事前に検討しておく必要があります。また、これらに加えて、分割後の貸借対照表や損益計算書への影響、会社分割の法人税法上の税制適格要件の判定、非適格分割における移転資産・負債や分割対価の時価評価あるいは税務上の資本金等の額と法人住民税均等割への影響、個人株主に対するみなし配当課税の有無、不動産取得税、登録免許税、会社法の手続、労働承継法への対応、または許認可の引継ぎといったように、検討すべき項目は多岐にわたります。M&Aで会社分割を活用する際は、各分野の専門家との綿密な連携が不可欠です。適切な助言と支援を受けながら、慎重かつ計画的に実行することを強くお勧めします。
なお、会社分割と似たような手法として、事業譲渡があります。譲渡対象事業において在庫・売上債権・不動産などの資産が少ない、仕入債務・金融機関借入などの負債が少ない、雇用契約を含む事業に関係する契約が少ないなど、事業規模が比較的小さい場合は、事業譲渡も検討の余地があります。会社分割と事業譲渡のどちらが最善の手法か、専門家と相談しながら検討を進めるとよいでしょう。