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あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

インフレ時の資産運用を貸借対照表的視点から考える

2026/01/05

 経済の様相が随分変わってきました。日本経済を特徴付ける修飾語は、長い間ずっとデフレが既定値だったのですが、最近はインフレに変わりました。しかし、デフレがインフレになったからといって、リフレ派がかつて主張していたようには、我々の生活は改善しないのが悩ましいところです。

 ただ、デフレとインフレでは資産運用のあり様は変わってくるはずです。デフレとインフレで個人の資産運用の基本スタンスがどのように変わるのか、あるいは変わらないのか、企業会計の貸借対照表的視点から考えてみたいと思います。

 

元本確定資産と価格変動資産、そして元本確定負債

 デフレ時とインフレ時の資産運用の違いを考察する前提として、貸借対照表の資産をその性格に応じて区分することから始めます。資産には「流動資産と固定資産」のように、様々な区分の仕方がありますが、デフレやインフレといった物価動向との関連を観察するのですから、経済情勢(物価動向)に応じて価格が変動するかどうかという視点で区分します。本稿では、資産価格が取得価格(簿価)で変わらない資産を「元本確定資産」、一方、その時点の資産価格が経済情勢に応じて変動する資産を「価格変動資産」とします。

 元本確定資産の代表は、貸借対照表に表示されている価格がいつの時点でもそのまま維持される国内通貨建ての現金及び預金です。また、国債などの債権や売掛金も回収金額が契約で定められている元本確定資産になります。一方、土地や建物といった資産は、取得価格である簿価は取得のために過去に支出した金額に過ぎず、現在あるいは将来の価格とは関係ない価格変動資産になります。

 大体は、実物資産は価格変動資産、金融資産の多くは元本確定資産になると思われます。ただ、金融資産の中の株式は常時価格が変動する典型的な価格変動資産になりますし、外貨建ての現金預金も為替次第で円換算額が変わる価格変動資産になります。

 大雑把に言うと、価格変動資産は物価動向に追随して価格が動きますから、インフレ時には価格が上昇し、デフレ時には価格が下落します。それに対して、現金預金等の元本確定資産はインフレ、デフレに関わらず価格を維持しますから、価格変動資産と比べた相対的価値としてはインフレ時には下落し、デフレ時には上昇することになります。

 もう一つ、貸借対照表的見地から忘れてならないのは負債です。資産に元本確定資産と価格変動資産があるなら、負債にも元本確定負債と価格変動負債があってもよさそうですが、通常、負債は金融負債がほとんどで元本確定負債になります。代表的なのは借入金になります。上述のように元本確定資産は価格変動資産に比べてインフレ時には価値が下落し、デフレ時には上昇します。そして、元本確定負債は元本確定資産とは価値変動のベクトルが逆に働きますから、インフレ時には価値が上昇(借入負担が減少)し、デフレ時には価値が下落(借入負担が上昇)することになります。

 以上が、物価動向に着目した貸借対照表の資産・負債の分類になります。次に、デフレ時とインフレ時の資産運用の考察を行いますが、元本確定や価格変動などというと煩わしいので、代表的項目として元本確定資産として現金預金、価格変動資産として土地と株式、元本確定負債として借入金を思い浮かべてください。

 

デフレ時の資産運用

 デフレ時の資産運用は明快です。デフレ時は現金預金の価格は変わらないのに土地や株式等の価格は下落しますから、価格が変動しない現金預金をできるだけ多く持つことが有利な資産運用になります。また、借入金の負担は上昇しますから、(価格変動)資産と(元本確定)負債をできるだけ圧縮し、貸借対照表をスリム化することが求められます。デフレ時はうまい儲け話は少なく、保守的な固い運用がベターとなりますから、資産運用の巧拙が余り問われないといえます。現金預金が望ましい資産運用だということになれば、富裕層ほど土地や株式等の価格変動資産の保有割合が多く、庶民層ほど現金預金の保有割合が多いと考えられますから、デフレ時は豊かになるのは難しいとしても、貧富の格差が生じにくい時代といってもいいでしょう。

 

インフレ時の資産運用

 インフレになるとデフレ時とは逆になります。価格の変わらない現金預金はできるだけ少なくし、価格が上昇する土地や株式を多く持つことが有利になります。さらにそこに負担の減る借入金を活用し、レバレッジを効かすと、より効果は大きくなります。つまり、借入金を借りて、土地や株式を購入するのです。(価格変動)資産と(元本確定)負債を増大し、貸借対照表を肥大化することが有効になります。昔、懐かしい1980年代のバブル時代の資産運用戦略です。

 

貧富の格差拡大

 しかし、多くの一般人はインフレになったからといって以下の理由で借入金を利用してまでの資産拡大運用は実行しない、あるいはできないと思います。一つは、このインフレ傾向がいつまで続くか分からないからです。もし、またデフレに逆戻りすれば、下落する資産と増大する借入負担で一気に行き詰まり、バブル崩壊時のように塗炭の苦しみを味わうことになります。また、たとえインフレが続くとしても、銀行はこうした野望を持つ一般庶民はリスクが高いと判断し、融資を渋るでしょう。銀行が対応するのは多少失敗しても返済余力のある富裕層だけになると思われます。

 結局、庶民のうちゆとりのある人たちが手持ち資金の範囲内で、現金預金から株式等に移動する程度になると思われます。そして、その他の大多数の人たちはモノの値段が高くなり、将来生活が不安になりますから、消費を一層節約し、貯蓄に励み、将来のために、現金預金を貯め込む、といったことになると予想されます。そうなると、インフレが進めば現金預金は相対的に価値が減少しますから、一般庶民は苦しくなります。一方、元々豊かな富裕層は銀行からの借入金も活用しながら、海外も含めた多様な資産運用により更に資産を増加することが予想されます。

 資産運用という点から考えると、デフレの時代は選択の余地が少なく、発生する格差も少ないのですが、インフレになると選択肢が広がることで、力のあるものが益々有利となり、貧富の格差を拡大することが懸念されます。

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