前回の「持株会社の活用(前編)」では、持株会社化によるメリットやデメリットについて解説しました。 本コラムでは実践編として、実際に持株会社体制へ移行するための具体的な手法と、それぞれの特徴・留意点について説明します。
1.株式移転
最も代表的な手法が「株式移転」です。 これは、新たに持株会社(親会社)を設立し、既存会社がその完全子会社となる手法です。既存会社の株主は、保有する株式を持株会社に移転(現物出資に近いイメージ)し、対価として持株会社の株式を受け取ります。
既存会社が1社の場合は「単独株式移転」、2社以上の場合は「共同株式移転」を用います。なお、既存会社同士で親子関係を作る場合は、「株式交換」も選択肢に入ります。
(1)メリット
①資金負担が少ない
既存株式を用いるため、持株会社設立のための多額の出資金は不要です(ただし、登記費用等は発生します)。
②完全親子会社化が容易
既存会社の株主が持株会社の株主にそのまま移行するため、株主構成を変えずにスムーズに100%親子関係を構築できます。
③許認可・契約関係の維持
事業を行う法人格自体に変更はないため、許認可や取引契約はそのまま維持できるケースが大半であり、実務的な負担が小さいのが特徴です。
(2)留意点
①株主総会の特別決議
組織再編行為となるため、株主総会での特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。
②特定の株主を排除できない
既存株主がそのまま持株会社の株主となるため、特定の株主を排除(スクイーズアウト)したい場合、本手続単独では目的を達成できません。
③「テクニカル上場」の手続き(上場企業の場合)
既存会社が上場廃止となり、新設する持株会社が新規上場する「テクニカル上場」の手続きが必要となり、相応の時間とコストを要します。
2.会社分割(抜け殻方式)
既存会社が、新設する子会社に対して事業(一部または全部)を移転し、元の会社を持株会社として残す手法です。元の会社が事業を持たない「抜け殻」となることがあるため、実務上「抜け殻方式」とも呼ばれます。
(1)メリット
①資金負担が少ない
株式移転と同様、持株会社設立のための多額の出資金は不要です(ただし、登記費用等は発生します)。
②柔軟な事業再編
事業ごとに切り出して子会社化できるため、「中核事業」と「非中核事業」を分離し、将来的なM&Aによる「非中核事業」の譲渡に備えるといった戦略的な組織設計が可能です。
③上場の維持(上場企業の場合)
上場している既存会社がそのまま親会社(持株会社)として残るため、改めて上場審査を受ける必要がなく、上場を維持したまま移行可能です。
(2)留意点
①債権者保護手続等の厳格な手続き
株主総会の特別決議に加え、債権者保護手続(官報公告及び個別催告)が必要となり、最低でも1か月以上の期間を要します。なお、官報に公告を掲載することに加え、定款の定めに従い日刊新聞紙による公告又は電子公告をした場合は、個別催告を省略できます。
②許認可の再取得リスク
事業主体が新設子会社へ変わるため、許認可の種類によっては再取得が必要となります。承継の可否や審査期間を行政庁へ事前に確認し、スケジュールに織り込むことが不可欠です。
③税務・労務コスト
不動産の移転に伴う登録免許税・不動産取得税(一定の場合、不動産取得税は非課税)の発生や、労働契約承継法に基づく従業員への通知・協議など、株式移転に比べて実務コストが高くなる傾向があります。
3.株式買取(事業承継スキーム)
組織再編行為ではありませんが、事業承継の局面でよく用いられる手法です。 後継者が新たに持株会社(受皿会社)を設立し、金融機関から融資を受けて、既存会社の株式を現経営者などの株主から買い取る方法です。
特徴と留意点
後継者が設立した会社に株式が集約されるため、後継者主導の経営体制(ガバナンス)を早期に確立できる点が最大のメリットです。 一方で、株式取得金のための借入金が多額になるケースが多く見られます。将来のキャッシュフロー(子会社からの配当等)で返済が可能か、綿密なシミュレーションを行うことが肝要です。
まとめ
持株会社化への移行は、企業の状況(上場の有無、資金力、株主構成、保有許認可)によって最適な手法が異なります。 自社に最も適した手法を選択するためには、事業面に加えて、法務・会計・税務・労務の各側面から入念な調査・検討を行うことが望ましいでしょう。