長い間、株価は実体経済の好不調を測る分かりやすいバロメーターとされてきました。そのため、時の政府は株価対策に力を入れてきました。
株価が高いということは、企業業績がよく、そこに働く人々の賃金は上昇し、企業が納める法人税や個人が納付する所得税等の税収も増え、その結果としてGDP(国内総生産)も増大する、というのがこれまでの一般的感覚でした。しかし、最近はやや様相を異にしてきているように見えます。
政権交代以後株価は上昇に転じ、昨年度も日経平均株価は2,151円上昇しました(2016年3月31日終値16,758円、2017年3月31日終値18,909円)が、労働者の実質賃金はほとんど上昇しません。また、2017年6月30日付日本経済新聞の報道によれば2016年度税収は所得税と消費税、法人税の基幹3税の税収がそろって前年度を下回ったと報じています。
この株価と実体経済の乖離原因には様々な要因が考えられます。よく言われるのは、日銀や年金資産などが株式を購入することによる需給要因からの分析ですが、ここでは会計、税務的側面からの株価と実体経済の乖離原因を考えてみたいと思います。
株価は連結財務諸表で動く
株価は常識的には会社の業績を反映すると考えられます。単純に考えれば、財務諸表の数値が良ければ株価は上がり、悪ければ下がるという構造になります。ただ、ここで注意しなければならないのは、株価は親会社単体財務諸表ではなく、連結財務諸表を見ているということです。
グローバルに事業を展開する大企業の業績は国内だけでなく、海外事業の業績も含まれます。連結財務諸表は親会社業績を基幹に海外子会社の業績が加わります。国内事業があまり振るわず、親会社単体財務諸表は悪くても、海外業績が好調なら、連結財務諸表は良くなります。近年我が国は人口減少時代に突入し、国内需要は頭打ちで、業績伸長ドライブを海外に依存する会社が増えてきました。こうした会社は連結業績が好調で、株価が上昇しても、国内業績は不振ですから、国内従業員の賃金も納付する税金も増えないという結果になります。
配当金の益金不算入
海外子会社の業績は連結財務諸表にはストレートに反映しますが、親会社単体の財務諸表にまったく無関係というわけではありません。それは海外子会社からの配当金という形で営業外収益に計上され、親会社の単体の利益を底上げします。どういう形であれ、利益が上がれば、税収が増えそうですが、そうとも言い切れません。というのは、海外子会社からの配当金は、条件はありますが、原則として税務上益金不算入となるからです。その結果、海外子会社からの配当に利益を依存する親会社の法人税額は伸びないことになります。
株価は国内の実体経済を反映しない
このような事情で、企業業績が好調で株価が高ければ、我々の生活はストレートに豊かになるとは言い切れない経済構造になっているといえます。最近は人口減少により国内需要の低迷は不可避ですから、グローバル企業の海外依存は強まるに違いありません。したがって、株価と実体経済の乖離傾向も強くなると思われます。
これまで、株価は実体経済を反映する鏡だと言われてきました。依然、そうした側面があることは否定しませんが、昔に比べればその要素は薄くなっていることを考慮して、冷めた眼で株価を見ることが必要だと思います。