2017年9月15日付日経新聞に「コミットメントラインの利用が急増している」という記事が掲載されました。
コミットメントラインとは企業が銀行と結ぶ融資契約枠のことです。コミットメントライン契約を結ぶと、あらかじめ契約した融資期間と融資金額の範囲内で、企業から要請があると、銀行は融資をしなければなりません。コミットメントラインの特色は、銀行は実際の融資がなくても、融資契約枠そのものに対して、手数料を取るところにあります。無論、融資を行えば、その融資金額に対して、利息を取ります。考えようによっては、企業は融資枠と融資金額の両方にコストが発生しますから、単純な融資に比べて割高になるように思われます。なのに、どうしてコミットメントライン契約が伸びているのか、会計的に考えてみましょう。
資産・負債の圧縮
企業にとって、資金繰りは重要です。当座の資金繰りに詰まり、支払資金が不足したために、約束した期日に約束した債務が支払えなくなってしまうと、他にいくら資産があっても、倒産という事態もあり得ます。資金を遊ばせておくのは無駄ですから、できるだけ有効に使いたいとは思うのですが、万一のことを考えたら、資金繰りをギリギリにしておくのは危険です。したがって、資金繰り担当者は余裕を持った資金繰りを心がけるのが常です。
たとえば、借入金で運転資金を調達する企業は、借入金を実際に必要とする資金より多めに借り入れて預金に預け入れておきます。その結果、必要以上に資産と負債は膨らんでしまいます。そこでコミットメントラインの出番になります。もし、コミットメントライン契約を結んでおけば、必要なときにはすぐ資金を借り入れることが可能になりますので、ギリギリまで借入金を絞り、資産と負債を圧縮することができるからです。
コミットメントラインの会計的影響
コミットメントラインは資金繰りの安定に役立ちます。ただ、会計的には、実際の融資がなくても、融資枠に対して手数料が発生しますから、損益計算書の当期純利益は減ることが予想されます。一方、貸借対照表の資産・負債を圧縮することができます。そのメリットとデメリットをよく考えることが必要です。
資産を圧縮できれば、総資産を分母とする各種経営指標が向上します。たとえば、自己資本比率(自己資本÷総資産)を引き上げることができるほか、当期純利益との兼ね合いにもよりますが、ROA(総資産利益率、当期純利益÷総資産)の引き上げもできるかもしれません。
最近の上場企業は資産効率の改善に熱心ですから、コミットメントライン契約による資産・負債の圧縮メリットを強く感じることが予想されます。そうしたことがコミットメントライン増加の背景にあるように思われます。
ところが、非上場企業ではそれほど経営指標にはこだわる必要はありませんから、当期純利益の下落のデメリットを強く感じるかもしれません。非上場企業に対するコミットメントラインの訴求ポイントは経営指標の改善より、万一のための資金繰りの安定という点にあると思います。
企業にとって、コミットメントラインの最大のメリットは言うまでもなく資金繰りの安定にあります。ただ、それだけでなく、その会計的影響も考慮の上、コミットメントライン締結の判断をする必要があります。