自然科学では原因と結果が一直線につながり、悪い結果の原因は当然に特定されます。しかし、社会科学は多様な原因が絡み合いながら、結果が導き出されますから、原因を短絡的に一つに特定するのは危険です。企業不祥事の対応にもそんな複線的な思考が必要ではないかと感じています。
経営的発想~コンプライアンスの重視
昨年は、日産自動車による無資格従業員による完成車検査、神戸製鋼所のデータ改竄など、企業不祥事が目立つ年でもありました。不祥事の内容は決して複雑なものではなく規定通りに仕事をしていれば簡単に防げるものでした。しかも、これらはいずれも日本を代表する大手大企業での事件だっただけに、「日本の製造業は大丈夫なのか」という声さえ聞こえてきました。現場の規律が緩んでいること及び経営者が現場の実態を十分把握できていないことが露呈しました。それは、当然のように、コンプライアンスの遵守や現場管理の徹底へとつながります。これは経営上層部、いわば上からの発想です。
現場の発想~仕事への熱意
一方、1月6日の日本経済新聞の社説には、次のような記事が載っていました。
『米調査会社ギャラップが昨年公表した、仕事への熱意(エンゲージメント)についての国際比較によると、日本で「仕事に熱意をもって積極的に取り組んでいる」従業員の比率は全体の6%。調査した139カ国のなかで132位と、最下位級にとどまった。』
日本企業の従業員は自ら仕事に主体的に取り組むのではなく、上からの命令でやらされていると感じている従業員が国際的にも高いというのです。日本企業は現場の「改善」や「創意工夫」の提案が多いと思っていいただけにやや意外ですし、日本人が仕事を後ろ向きに捉えていることを残念に感じました。これは現場からの視点です。
上からではない下からの改革
企業不祥事が発生すると、我々は安易にその原因を経営層の現場管理の怠慢に求めがちです。確かにそうした側面もあるかもしれません。しかし、上記の仕事への熱意の低さを見ると、違う面からの検討が必要なのではないかとも思えます。管理を徹底しすぎることによる、現場の主体性の喪失です。
経営層がコンプライアンスを重視し、現場に監視カメラをつけたり、日常の行動を細かく管理したり、ミスをなくすために仕事のマニュアル化を徹底すれば、仕事が形式化し、現場従業員の主体性は失われ、やらされ感は増していきます。それが現場従業員のやる気を失わせ、不祥事につながるという見方です。
企業により実態は異なり、取り組み方は変わってきて当然でしょう。ただ、不祥事が起きたときに、ただひたすらステレオタイプに現場に対する締め付けを強化しようとすると、現場の疲弊感は強まります。
今、「働き方改革」が叫ばれていますが、それは依然として生産性上昇を目指す上から目線からの改革です。しかし、今我が国で本当に必要なのは現場の主体性を重視した、仕事の熱意を高める、下からの「働き方改革」なのかもしれません。