最近、銀行経営が行き詰っているという話題が雑誌や新聞でよく取り上げられます。その主因は成長鈍化やカネ余りで銀行の主たる収益源である貸出金の利ザヤが縮小していることにあり、日銀のマイナス金利政策もそれに追い打ちをかけています。
そんな中でも、都市銀行は集約化が進み、資本力や人材も豊富で、海外展開をしていることもあり、何とか苦境を切り抜けられるのではないかと見られています(それも確かではありませんが)。問題は地方銀行です。日本全体の人口減少が進む中で、東京の一極集中は加速していますから、地方の人口減少は一層深刻です。地方銀行はその成り立ち上、地元の企業や個人への貸し出しをビジネスの主力とせざるを得ず、それに代わる収益機会を持たないだけに、状況は誰が考えても深刻です。
金融庁の地域活性化策
そこで監督官庁である金融庁は今夏の組織改正で監督局に「地域金融生産性向上支援室」を作り、地銀再生に本腰を入れるとの記事が掲載されました(2018年8月10日付日本経済新聞)。そこでは、地域の企業がどのような金融サービスを求めているか、企業側のニーズを把握し、企業のニーズと地銀の意識のズレを分析し、企業活性化に役立つ金融サービスを行うように地銀を指導するということのようです。これまで担保や保証に過度に依存し、柔軟な融資を行ってこなかった地方銀行が地元企業にその企業のニーズに合った融資等の金融サービスを行うことで、地盤である地域が活性化すれば、地方銀行も再生するというシナリオだそうです。このように聞くと、もっともなように聞こえますが、この手の金融庁のニュースを聞くたびに私は違和感を覚えます。
地方銀行がさぼっていたのか
まず、第一に顧客のニーズに合わせ、自社の持っているサービスを提供するのは企業として当然のことだろう、ということです。その当然のことがこれまで地方銀行はできていなかったということなのでしょうか。つまり、地方銀行は顧客のニーズを考えずに、自分の都合を優先して、担保や保証に過度に依存して融資を行っていたのでしょうか。もし、そうだとすれば、企業としての根幹が崩れているのですから、そんな銀行は金融庁の指導を受けたところで、経営層をはじめとした幹部を抜本的に変えない限り、再生は不可能でしょう。
多分、そうではないのだと私は思います。地方銀行も当然、顧客のニーズを把握しその上で、顧客企業の発展のために貸し出しを行っていたのだと思います(その際、必要に応じて担保や保証を取るのは金融機関として当然のことです)。そうした貸し出しを行ってもなお地域が衰退していることが問題なのです。
次に、金融庁は地域の活性化のカギは依然としてカネにあると思っているように見えるところにあります。もしカネの付け方が問題であるなら、地域衰退の主因は地銀にあり、地銀が正しく行動すれば、地域も活性化するということになります。そうだとすれば、問題の所在も解決法も極めて簡単です。しかし、私は地方の衰退の主因がカネにあるとは思いません。カネではない、地銀の枠を超える人口減少やグローバル化などの様々な要因が作用して現在の状況を作り出しているから、解決が難しくなっているのだと思います。
誰がビジネスモデルを描くのか
金融庁が地銀のビジネスモデルの一つだと推奨していたスルガ銀行の不祥事に見られるように、そう簡単に地銀が模範とすべきビジネスモデルが描けるとは思いません。社会主義の国でもあるまいし、そもそも監督官庁にビジネスモデルを考えてもらっている段階でその業界は終わっていると言えます。
地方銀行再生のビジネスモデルはお上が決めるのではなく、それぞれの地域の実情に沿い、自分の頭で考えるしかないのです。それができなければ、コスト削減のための再編しか残された道はなくなります。