求められる株主との対話
上場企業に対して株主との対話がより一層求められています。
最近では、東芝に対する会社分割案の見直しの要求、セブン&アイ・ホールディングスに対する非中核事業の切り離しの提案など、株主が投資先企業に積極的に働きかける様子が報道されました。
背景に2つの原則
株主との対話の重要性が増している背景には、2つの原則が策定・適用されていることが関係しています。それは、機関投資家に対する行動規範である「日本版スチュワードシップコード」と、上場企業に対する企業統治の指針である「コーポレートガバナンスコード」です。
両コードは、機関投資家と企業の建設的な対話を通じて、企業が持続的に成長し企業価値を中長期的に向上させることを促しています。
ちなみに私たちにとって身近な機関投資家は、私たちの年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)でしょう。
対話の基準となる指標
対話といっても何を基準とすればよいのでしょうか。そのひとつとして、「資本コスト」と「投下資本利益率」があります。
詳細については省略しますが、「資本コスト」は、株主や債権者などの資金提供者が企業に求めるリターンです。企業側から見れば資金調達にかかるコストです。Weighted Average Cost of Capital(WACC)と呼ばれています。2013年のある調査では、7~8割の国内機関投資家が、日本の上場企業に対して5~8%のリターンを求めています。
一方、「投下資本利益率」は、企業が事業活動に投じた資金からどれだけリターンを生み出したかを示す指標です。「税引後営業利益÷投下資本」で計算されます。Return On Invested Capital(ROIC)と呼ばれています。
資金提供者が求める以上に企業がリターンを生み出していれば、つまり“ROIC>WACC”の状態であれば、企業は資金提供者の期待に応えていることになります。
逆に“ROIC<WACC”の場合、企業は資金提供者の期待に応えられていません。その場合、資金提供者である機関投資家は、企業に対して資本効率向上の取組みについて説明を求めたりその取組み自体を提案したりします。
冒頭のセブン&アイ・ホールディングスの例では、機関投資家がROICがWACCを下回っているとしてスーパーストア事業のイトーヨーカ堂を売却し、ROICが高いコンビニエンスストア事業に集中することを要請しています。
ROICの活用
このように株主はROICに注目しているため、上場企業では株主との対話を意識した経営をするためにROICを目標設定や事業の評価に活用することは有用です。ROICは売上債権回転期間や棚卸資産回転期間など会社内の比較的現場に近い指標に分解でき、分解した指標を各現場の目標として設定することができます。ROICをうまく活用することが、より少ない元手でより多くの成果をあげる意識を醸成することにつながり、筋肉質な経営体質を実現することや株主の期待に応えることの一助になると私は考えます。また、ROICは上場企業だけではなく非上場企業も活用できますので、目標指標として採用してみるのはいかがでしょうか。
(2022年2月あがたグローバル経営情報マガジンvol.40
「今月の経営KEYWORD」に掲載)