東京・長野・金沢を結ぶエリアを中心に、税務・会計・人事・労務・M&Aをトータルサポート

あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

大砲かバターか

井口 秀昭
2026/07/01

 金利ある世界が戻り、国債金利が上昇しています。主力の10年債は、2020年頃までは0%近辺だったのですが、最近では2%台後半から3%に迫る勢いで、およそ20数年振りの水準となっています。国債金利の上昇は住宅ローン金利の上昇等様々な分野に波及しますが、最も直接的な影響を受けるのは、言うまでもなく財政支出です。金利ある世界が戻ると、財政支出の考え方を根本的に考え直さなければならなくなります。

 

低金利を論拠に財政拡大

 日本の財政状態に余裕があるかどうかについては、かねてから激しい論戦が交わされてきました。日本の債務GDP比率は200%を超え、250%に迫ろうとしており、先進国は言うに及ばず、世界でも最悪の水準にあり、財政状態は限界に近づいている、というオーソドックスな財政破綻を懸念する意見は根強く存在します。したがって、この人たちは政府に財政健全化を要求します。

 他方、日本はかつて財政破綻が噂されたギリシャなどとは違い、国債の多くは国内債で、そしてそのほとんどが国内で消化されていて、しかも経常収支も黒字であることから、日本の財政状態に余裕はあると主張する人もいます。この人たちは財政状態に懸念はないと判断していますから、国債を財源とした更なる積極財政を提唱します。

 財政状態に問題はないとする人々の最も有力な根拠となっていたのは国債の金利状況です。アベノミクスにおける異次元の金融緩和政策で国債の金利は長い間0%近くに留まっていましたから、彼らは次のように主張していました。

 「国債の償還に懸念があれば、金利はこんなに低くはならないはずだ。これだけ低金利でも国債が発行できるのは日本の国債が市場に受け入れられているということであり、国債にはまだ発行余力があると解釈できる。」

 事実、金利がゼロに近いので国債を増発しても実際の利払い費の増加はわずかであり、安心して国債を発行できたのです。金利が低いことを最大の論拠として国債の増発を続けてきたといってもよいでしょう。

 

市場からの警告

 その国債金利に明確な異変が生じてきているのです。アベノミクス終了後においても、国債発行に依存する財政状況が続きます。それに加え、民間部門でもデジタル赤字の拡大や新型NISAの導入に伴う海外投資の活発化などで、資金の海外流出が増加し、市場金利は徐々に切り上がってきました。「責任ある積極財政」を掲げる高市政権発足後、国債金利の上昇は加速し、現在3%に迫る状況になっているのです。この事態は、日本の財政状態悪化に対する市場からの重大な警告だと私は思います。

 

依然として大砲もバターも

 財政支出を考えるときに、よく出てくるのは「大砲かバターか」という言葉です。大砲は防衛の、バターは民生の象徴です。財政はそのどちらかを選択しなければならないというのです。しかし、それは財源に限りがある場合の話です。金利がほとんどゼロに近い国債を無限に財源にすることができるとすれば、無理に「大砲かバターか」を選択する必要はなく、「大砲もバターも」どちらも手にすることができます。こうした財政制約が緩い状況だから、日本の財政は肥大化してしまったともいえます。

 金利ある世界の到来は財政支出の基本姿勢に変革を迫ります。財政支出を行うには財源が必要になりますが、金額が巨額なだけに3%近くの金利負担は決して軽くはありません。政権の思惑は、積極財政により経済が拡大し、税収が増えれば、国債の利払いに問題はない、というものですが、過去の実績が示すとおりそのシナリオの実現は簡単ではありません。であれば、「大砲かバターか」を真剣に検討し、国債発行を抑える必要があります。そうしないと早晩、利払いのための国債発行に追い込まれ、国債増額に歯止めがかからなくなってしまうからです(銀行では、こうした借金の元利払いのために行われる借入を「資金繰り資金」と呼び、こうなってしまった会社を破綻に近い会社として非常に警戒します)。

 にもかかわらず現在の財政は、不穏な国際情勢やアメリカからの要求もあり、防衛支出の増大は続き、一方、中東情勢悪化で苦しむ国民生活支援のためとしてガソリン価格補助金や電気・ガス代等への支援、さらには消費税減税さえも検討されています。つまり、依然として「大砲もバターも」の状況が継続しているのです。

 現在の金利状況はまだマイルドに見えるかもしれませんが、市場は重大な警告を発しているように思います。警告を軽視し、国債に依存した財政拡大を続けるならば、「大砲かバターか」を今よりももっと厳しい環境下で、より苛烈な形で選択せざるを得なくなることを危惧します。

執筆者

最新の記事