中小企業からグローバル企業まであらゆる経営課題に解決策を

のれん償却方法の違いから見る企業文化

2014/03/03

2014年1月27日の日本経済新聞に、企業がM&A(合併、買収)をやりやすくするためにのれん償却を不要とすべく、会計基準を改正するように検討に入った、という記事が掲載されていました。今回は、のれん償却方法の違いとその背景にある企業文化との関係について考えてみます。

規則償却と減損

現在の日本の会計基準では、M&Aで生じる資産側に発生するのれんについて、20年以内で定期的に規則償却をすることを定めています。一方、IFRS(国際会計基準)や米国会計基準では規則償却はせず、のれんはそのままの金額で資産に残し、買収した事業や企業の収益性が落ちたときに、減損として費用処理するようにしています。したがってこの場合、収益性が落ちない限り、のれんの償却は発生しません。資産にあるのれんを償却すれば、損益計算書に費用が発生するのに、償却しなければ費用が出ないので、日本の会計基準はM&Aでは不利になるというのです。
のれんを償却しようがしまいが、会計上の処理方法の違いだけで、キャッシュフローには関係なく、そんなことが企業行動に影響することはありません。M&Aをするかしないかは、企業なり事業を手に入れるために投下したキャッシュフローと、獲得した企業や事業が将来獲得するであろうキャッシュフローを比較して判断することですから、会計基準の変更は影響を与えないと考えるべきです。ただ、会計基準が違えば表示される利益が違ってきますから、株価には影響を与えるといったことはあるかもしれません。
先ほども述べたように、のれんの償却、非償却は本質的にM&Aの判断に影響を与えるものではありません。ただ、のれんを償却するかしないかという会計基準の違いは、日本と欧米の企業文化の相違を示唆しているように思います。
集団責任か個別責任か
日本基準ではのれんを原則として定期的に償却します。定期償却ですから、買収対象事業や企業の損益状況とは無関係に償却が発生します。また、のれんの償却費は企業全体の利益から控除されます。こうした会計基準を採用している背景には、買収された事業や企業も買収されてしまえば、もはや親会社と一体になったと考えようという企業の意向を感じます。そうした考え方に立てば、買収の象徴として発生したのれんは買収対象企業が親会社と一体化するにつれ、徐々に小さくなり、何年か経てば消えてなくなるというストーリーは説得力を持ちます。同じ企業グループになったのだから、いつまでも買収した側と買収された側を区分して、個別の事業の採算を云々するのではなく、企業グループ全体で前向きに進もうという思想には合致した会計処理だといえます。ただ、この場合、個別の責任追及は甘くなりがちになります。
これに対し、IFRSや米国基準ではのれんの規則償却はせず、買収した事業や企業の業績が著しく悪化したときに、減損をします。そこには、同じ企業グループに入ったといっても、ある事業の損失を他の事業でカバーする全体責任ではなく、あくまで個別事業体として、損失が発生した責任はその事業にとってもらうという発想があるように思います。これは事業ごとの責任追及には適した思想ですが、企業グループ一体で利益を追求するという観点とはやや違うように思います。
企業文化と会計
どちらの思想にも一長一短があり、どちらがいいとか、悪いとかいうことではないのですが、買収が終わってしまえば、買収した方もされた方も一体だという集団主義的考え方の方が日本人のメンタリティーにはあっているような気がします。
私は、会計基準は単に会計基準として存在するのではなく、その国特有の企業文化を背負って成立していると思っています。企業文化が変われば、会計基準もそれに応じて変わらなければなりません。今回、のれんの償却方法が変わるとすれば、日本のM&Aに対する企業文化も欧米風に変わってきているということなのでしょう。あるいは、もし企業文化が変わっていないとしたら、会計基準を改正するのは時期尚早ということになるのだと思います。

執筆者

最新の記事