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インフレになれば、企業行動を変える?

2014/02/05

デフレではモノの値段が下がり、裏腹にカネの価値が上がります。モノの価格は年々下がるのですから、先に行けばいくほど同じモノを安い価格で手に入れることができます。だから、段々モノを買わなくなり、不況は深刻化します。それで益々モノの値段が下がりデフレは続くということになります。これがデフレスパイラルです。
デフレのままでは経済が活性化しないということで、何とかデフレからインフレに持っていこうとして、日銀の異次元の金融緩和が開始されました。インフレになれば、デフレとは逆に、先に行けばいくほどモノの値段が上がりますから、皆がいち早くモノを買うようになり、経済が活性化するというのです。日銀の量的緩和でインフレに転換させようとする政策を「リフレ政策」といいますが、このリフレ政策の有効性について経済学者の間で激しい議論があり、その妥当性は検証されているわけではありません。ここではリフレ政策の有効性の議論はさておき、仮に政府・日銀の思惑通り、インフレに転換したとして、企業行動に与える影響を考えてみます。

インフレ時の企業行動

デフレ時の説明に入る前にかつてのインフレ時を考えてみましょう。1950年代から80年代の、いわゆる高度経済成長期からバブル期までです。この時代を象徴する企業はダイエーです。ダイエーの企業目標は明解でした。それは「資産の拡大」です。店舗用地を中心に土地を購入します。インフレですから、購入した土地は値上がりしていきます。土地は銀行借入における最も有効な担保でしたから、その土地を担保にして借入を起こすことができます。借入した資金で、また新しく土地を購入したり、店舗を建設したりします。すると、また新たに取得した資産で借入を起こし、土地を購入できます。これを繰り返すことにより、資産は急速に拡大します。確かに、借入金が増大し、金利もかさみますが、土地は値下がりしないという「土地神話」の下、土地の評価益の拡大の方がはるかに大きいのですから、借入金の増大など気にせず、銀行が貸してくれる限り、土地を中心にひたすら資産を購入し続けるのです。資産を購入するのは、使うからではなく値上がりするからです。この経営方針の下、ダイエーは一気に小売業日本一まで上り詰めました。
デフレ時の企業行動
ところが、デフレになると様相が一変します。購入した資産の価格は下がるのに、当然のことながら負債の借入金の額面は変わりません。担保である資産価値が下がると、銀行では保全不足が生じます。こうなると、銀行は豹変します。かつて、甘言を弄して融資を迫った銀行は、手のひらを返したように強面に返済を要求します。ダイエーはキャッシュのほとんどを資産の購入に振り向けていましたから、借入金返済要請に応じることができなくなるのは自明です。
デフレ下で求められる企業行動は次のようなものでした。モノの価格は将来安くなるのですから、資産購入は慎重に行うことが求められます。資金を借り入れて資産を購入すると、借入金額は変わらないのに、購入した資産の価値は下がってしまいますから、そのままでは損になってしまいます。この場合、重要なのは購入した資産が値上がりするかどうかではなく、その資産が将来どれほどのキャッシュフローを生み出すかです。生産設備で使う土地であれば、建設した工場が稼働して獲得するキャッシュフローですし、製品や商品等の在庫であれば、顧客にまで届け獲得できるキャッシュフローです。獲得できるキャッシュフローと取得価額とを見比べて資産購入の可否を判断することになります。デフレ下で要請される企業目標は資産をできるだけスリム化しながら、キャッシュフローを極大化すること、といっていいでしょう。
キャッシュフロー経営
さて、政府、日銀の思惑通り、インフレに転換したとして、企業行動を以前のダイエーように変えるべきなのでしょうか。一部の政府関係者やエコノミストにはそうなることを期待している向きがあるかもしれませんが、答えは、もちろん「否」です。値上がり期待の資産購入は企業の本道ではありません。企業の本筋はキャッシュフローの獲得です。デフレの時代にようやく根付いたキャッシュフロー経営を崩してはいけないと私は思います。
資産購入について重要なのは資産の使い方であり、使用により生み出すキャッシュフローです。どんな時代でも、企業が資産を購入する理由は、漠然としたマクロ的値上がり期待ではなく、企業が合理的に予想できるミクロ的なキャッシュフロー予測に基づいたものでなければなりません。マクロ的経済予想はグローバル情勢など一般人があずかり知らない膨大な変数があり、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」の世界ですが、業種動向や顧客志向といったミクロ予想は企業や経営者に身近なため、より確実に予想できるはずだからです。

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