中小企業からグローバル企業まであらゆる経営課題に解決策を

「経済成長を抑制する消費形態の変化」

2014/12/01

安倍政権の経済政策の第一の目標は成長の加速ですが、経済成長を端的に示す指標であるGDP(国内総生産)も物価上昇率も当初期待していたほどには高まりません。その原因をもっぱら消費税増税等の経済政策の不備に求める考え方も存在しますが、私は経済構造の変化も大きな要因ではないかと思っています。経済構造の変化でよく言われるのは、人口減少や技術革新の問題などですが、ここでは消費形態の変化に着目してみましょう。
かつては、モノを消費するためには、専門の事業者から新品のモノを購入して、個人の占有物とすることが暗黙の前提でした。ところが、現在では、その暗黙の前提が崩れかけています。モノを1人で占有するのではなく共同で借りたり、あるいは、売買や賃貸の当事者も事業者だけではなく、消費者も台頭するなどして、実に多様化しています。ネットの普及がそうした消費形態の多様化を後押しします。そして、それが数字で表現される経済成長を低める要因となっているのです。

シェアハウス、カーシェア

最近、一人暮らしの若者を中心にシェアハウスが拡大しています。一人で住居を借りれば、確かに自由度は高まりますが、一人で住居全体を使うわけではないとすれば、経済的に見れば無駄です。そこで、一つの住居を数人でシェアして借りようというのです。共同で借りれば、使用勝手の自由度は狭まりますが、住居全体の有効性は高まります。また、車も共同で利用するカーシェアが急速に普及しています。車も一日中使っているわけではないので、自分が使わない時間に他の人に使ってもらい、共同で使えば車利用の有効性は高まります。
シェアハウスやカーシェア普及の背景には、消費における利用目的の明確化ということがあります。それは当然のことのように聞こえるかもしれませんが、以前はそうではありませんでした。車に典型的に見られるように、いい車を所有しているということがある種の価値を持っていました。だから、多少無理をしても若者はローンを組んで自分で車を所有しました。いわば、「見栄の消費」です。それが車の生産台数を増やし、経済成長率を高める一因となっていたのです。しかし、車を移動のための手段と割り切れば、何も自分一人で占有的に所有する必要はなく、幾人かで共同利用した方が効率的です。「見栄の消費」がなければ、車の販売台数は減りますから、当然経済成長にはマイナスに作用します。
ネットの普及が消費者同士を結び付ける
さらに最近の消費形態の大きな変化に、ヤフオクなどのネットオークションやホテル代わりに個人の住宅の一室を貸すエアビーアンドビーなども挙げられます。オークションは自分が使わなくなった品物を他人に売却するものですし、エアビーアンドビーは空いている部屋を旅行者などに貸すものです。どちらも個人が最終ユーザーに直接販売するのが大きな特徴です。
これまでは消費者である個人が片手間に事業を行うハードルはとても高いものでした。売りたかったり、貸したかったりしたいモノが手元にあっても、個人が所有するわずかのものを幅広く世の中に営業展開する方法を持たなかったからです。しかし、ネットの普及は個人の営業展開コストを劇的に引き下げました。従来であれば、消費者は事業を行う専門の事業者から高い新品を買うしかなかったのですが、消費者同士の安い中古品の直接取引がネットを媒介して可能になったのです。事業者を通せば、経済成長の統計に表れますが、零細個人の事業収益は経済成長にカウントされませんし、高い新品の販売を抑えますから物価にもマイナスの影響を与えます。
旧来型経済政策からの脱皮
このように、利用目的の明確化によるモノの共同消費やネットの普及による中古品市場の拡大は、経済統計に表現される経済成長や物価上昇率を抑制します。しかし、経済成長率は鈍化しても、住むための住居、移動するための車、着るための衣服、泊まるための部屋といった消費者の効用は決して減少していません。
旧来型のGDPの上昇率と物価上昇率のみに目を奪われ、旧来型の財政、金融政策に力を入れすぎると、経済の歪みは拡大します。その典型が国債のマイナス金利です。カネを借りる方が金利をもらうという世界は常識的ではありません。それは、物価を上昇させようとして、金融政策に活用しすぎた結果です。
今求められるのは、こうした消費形態の変化も考慮に入れ、経済政策をつつましく行うことではないかと思います。

執筆者

最新の記事