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「稲盛哲学に見るデフレマインド」

2015/01/05

総理も日銀総裁も「デフレマインドの払拭」を声高に訴えます。ことほどさように、近年はデフレマインドが諸悪の根源のように言われますが、私はビジネスにおいては、デフレマインドは必須の思考方法だと思っています。

インフレマインドとデフレマインド

デフレマインドとは言っても、教科書的な定義があるわけではありません。デフレマインドを明確にするために、その逆のインフレマインドから見ていきましょう。インフレマインドにも定まった定義があるわけではありませんが、大よそ以下のように集約されると思います。「インフレでは貨幣価値に比べてモノの価値が上昇するから、インフレマインドとは貨幣をいたずらに貯蓄することなく、できるだけ早めにモノを購入するのが有利」と考える志向です。デフレマインドはこの反対ですから、「モノの価値は先に行くほど下がるのだから、モノの購入はできるだけ遅い方がいい」という考え方になります。
前段の貨幣とモノの価値の関係を除き、モノを買うという行動様式だけに焦点を当てると、インフレマインドは「早めにモノを購入すること」であり、デフレマインドとは「できるだけ遅くモノを購入すること」ということになります。カネを保有しているだけでは経済成長に貢献しませんから、インフレマインドの方が経済成長に貢献することは明らかであり、政策当局は「デフレマインドからの脱却」を切望するわけです。

「稲盛和夫の実学」

しかし、ビジネスという観点から見ると、デフレマインドについてまた違った姿が見えてきます。京セラフィロソフィーで有名な稲盛和夫氏は次のように言っています。
『京セラでは、原材料などの購買について、毎月必要なものは毎月必要な分だけ購入するようにしている。場合によっては、毎月ではなくて、毎日必要な分だけを買うようにしているケースもある。私はこれを「一升買い」と呼び資材購入の原則としてきた。たとえ、一斗樽でまとめて買えば安くなりますよと言われても、今必要な一升だけを買うようにしてきたのである。
(中略)
使う分だけ当座買いするから、高く買ったように見えるが、社員はあるものを大切に使うようになる。余分にないから、倉庫も要らない。倉庫が要らないから、在庫管理も要らないし、在庫金利もかからない。これらのコストを通算すれば、その方がはるかに経済的である。セラミックのように腐らないものならまだしも、腐るものを扱う場合には、気がついてみたら使えなくなっていたということになりかねない。』(「稲盛和夫の実学」P95~98)
本書でそう呼んでいるわけではありませんが、これは明確にデフレマインドの発想です。投機で儲けようとするのであれば、将来モノが高くなりそうだから、思惑で早く、多めに仕入を行う、ということはあるでしょう。しかし、投機ではなく、純粋にビジネスで利益を上げようとするなら、それは決して正しい方法ではありません。必要以上のモノを思惑で買うと、在庫が増え、管理費や金利がかかりますし、陳腐化して使えなくなるリスクも抱えます。それに、買ったものが上がるかどうかも不確定であり、思惑が外れ、価格が下がることもあります。そうなったら、泣きっ面に蜂です。

大切なのは企業の外ではなく中

デフレマインドとインフレマインドの大きな違いは、モノを購入する動機に起因します。インフレマインドでは買おうとするモノの値段が上がるかどうかがポイントですが、デフレマインドでは買おうとするモノが自分の会社で今必要かどうかに注目します。つまり、購入動機の出発点がインフレマインドでは企業の外にあるのに対し、デフレマインドでは企業の中にあります。モノの価格が上がるからという思惑で買うのではなく、モノの価格がどうであれ、自分の会社にとって必要なモノを必要な量だけ買うのが稲盛哲学です。
デフレマインドはマクロの経済成長にはマイナスかもしれませんが、ミクロの企業経営では忘れてはならない思考だと、私は思います。

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