日銀の追加金融緩和が強力に進められています。金融緩和が企業に及ぼす影響は一様ではありません。金融緩和に伴う円安で交易条件が好転し潤う輸出業者がある一方、原材料が高くなり困っている輸入業者も増えています。目立たないのですが、その他に苦しくなる業界の一つに銀行があります。
銀行の苦境
金融緩和の目的の一つは、銀行が保有する国債を日銀が買い上げ、金利を引き下げると同時に、銀行の手持ち資金を増加させ、その資金を貸出に振り向けさせようとすることにあります。ところが、肝心の企業の資金需要は盛り上がらず、日銀の思惑通りに企業向け貸出は伸びません。銀行は預金として預かった資金をどこかで運用しなければなりませんから、貸出が伸びなければ、仕方がないので、金利が低くなっても国債を買うしかありません。運用側の国債金利が低くなるのに対応して、調達側の預金金利も低くなればいいのですが、預金金利はほとんどゼロにへばりついており、これ以上の下げ余地はありません。株式やREIT、外国債券といった選択肢もないではありませんが、こうした金融商品は量の問題や反転したときのリスクが大きく、銀行が大量に所有するには適していません。その結果、銀行は日銀の量的金融緩和で生じる金利低下に伴う利ザヤの縮小を、指をくわえて見ているしかない状況です。
かといって、金利が反転上昇すればいいかというと、それも困ります。なぜなら、今度はそれまでに抱えた低金利の債券に評価損が発生するからです。金利低下では直接利ザヤが取れず、金利上昇では評価損が怖いという、銀行にとっては何とも出口の見えない状況になっています。
ネット金融の拡大
ただ、銀行の本業である貸出に突破口はないかというと、ネットの世界では新しい動きが出てきています。アマゾン、楽天などが自社モールに出店する加盟店に対する融資を積極化しているのに加え、このほどは、ジャパンネット銀行がヤフー出店者向け融資に参入するとの報道がなされました(2015年1月5日付け日本経済新聞)。
こうしたネット関連融資の特徴は、特定商品の物流に付随した金融であること、融資金額が小口で金利が高いこと、申し込みから融資までの期間が短いこと、決算書を使わずネットモール上の商品の売れ行き状況を融資審査の主たる材料とし、人手を掛けないシステマティックな融資判断をすること、などです。こうした特徴の必然的帰結として、ネット関連融資が焦点を当てるのは、企業全体としての信用判断というより、当該個別融資に限定した回収可能性になります。これはネット経済の拡大とネット技術の進展がもたらした新時代の融資手法だといえます。
越えがたい溝
銀行貸出が伸びない中で、ネット関連融資は時流に即していて、融資分野における数少ない成長分野だといえます。需要の拡大が期待でき、金利も高いのですから、既存銀行も参入すればよさそうですが、ことはそう簡単ではありません。なぜなら、銀行は上述のネット関連融資の特色をことごとく保有していないからです。
銀行は商流を握っていませんし、融資審査は決算書を使い、時間と人手をかけて主として人間の判断に依存して、慎重に行うことを特徴としていますから、大型の融資向きで小型のスピード融資には適していません。銀行融資において重視されるのは、個別融資の回収可能性というより企業全体の信用判断になります。同じ融資といっても、ネット関連融資と銀行融資では根本思想やシステムで越えがたい溝があり、銀行のこれまでの考え方では、そう簡単に乗り越えられるものではないのです。
銀行は、上からは日銀の金融緩和、下からはネット関連融資に押され、袋小路に入りつつあります。ただ、業績不振の原因を金融環境のせいにばかりして、手をこまねいていてはジリ貧になるだけです。銀行に求められるのは、かつての床柱を背にした殿様商売の感覚を捨て去り、大きな溝を乗り越え、新しい時代に打って出る勇気なのでしょう。