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「ガバナンスを支えるのは倫理観」

2016/02/01

昨年は東芝の不適切会計、VWの排ガス規制問題など企業不祥事が相次いだ年でした。事件を起こした東芝やVWは、その国の名門企業と言われていた会社だけに大きな衝撃を与えました。
それと同時に我が国では、上場企業のガバナンス(統治)体制の改革も大きなテーマでした。取締役の大多数が社内出身者であることが、不祥事発生の一因になっているのではないかというのです。一般株主、あるいは社会からの視点を会社の意思決定に入れるべきだということで、社外取締役の存在がクローズアップされました。

経済学の碩学岩井氏の警告

こうした考え方に対し、著名な経済学者である岩井克人氏は警鐘を鳴らします。1月3日付の日本経済新聞のインタビュー記事で次のように述べています。
「社外取締役の義務化といった外形的な統制制度を整備しても限界がある。会社のガバナンスは究極的に、経営者、さらには従業員の倫理性によって支えられているからである。」
会社ガバナンスの最終的な砦は外形的な統制制度ではなく、社内の役員、従業員の倫理観だというのです。東芝は社外取締役の整備などでガバナンスの優等生といわれていただけに、この言葉は説得力を持って我々の胸に響きます。

外形的統制制度だけでは不十分

社外取締役等の外形的な統治制度が不要というわけではありません。もし不祥事が起きた時に、標準とされる外形的な統治制度が不十分であれば、不祥事発生の原因は統治体制の欠如に帰せられてしまうからです。
社外取締役の導入などの外形的な統治制度もガバナンスの構築に相応の効果があることは事実です。ただ、そうしたことを整備すればそれですべてオーケーではないということは認識しておかなければなりません。外形的な不祥事防止策や統治体制を整備したところで、不心得者がいれば、どんな防御壁も必ず乗り越えてしまいます。岩井氏が言う通り、会社のガバナンスは究極的には社内で実質的に業務を行う役職員の倫理観によることを忘れてはいけません。

社員の倫理観の醸成

東芝のように、会社幹部である取締役が不祥事に関与していると、その打撃は致命的で、信頼の回復は容易ではありません。取締役の倫理観は絶対要件です。取締役は人数が限られていますから、取締役の倫理観を保つことはさほど困難ではありませんが、難しいのは人数が多い一般社員の倫理観の醸成です。ならば、社員向けに倫理研修を増やせばいいじゃないか、と考えるのは、それこそ外形的な体制整備に過ぎません。
何か問題が起きたとき、外形さえ整えれば、それで十分と考えるのは短絡的です。無論、会社外部の人から見れば、外形が整っていることは重要です。しかし、会社内部の人間に問われているのは整えた外形を実質的にどう機能させるかということです。
月並みな表現になりますが、「形に心を入れる」ことが経営者の役割だといえます。

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