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「マイナス金利は設備投資を活性化させるか」

2016/05/02

日銀が実施しているマイナス金利が注目されています。その影響は金融市場と実体経済に及びます。金融市場に対しては金利をマイナスにすることで円の魅力を薄くして円安に誘導し、株価を上昇させるという意図があったようですが、これまでのところ日銀の思惑通りに市場は反応しているとはいえない状況です。どう動くにしろ、日銀の金融政策は金融市場に大きな影響を与えることは間違いありません。というのは、市場関係者はどんなことでも材料にして、相場を動かし、儲けることが習性だからです。
問題は実体経済にどう影響を与えるかです。日銀はマイナス金利にすれば貸出金利が低下し、設備投資が増加することによって、実体経済が活性化すると言っています。果たしてそうなるでしょうか。金利低下が設備投資に与える影響を損益計算書の表示を通して考えてみましょう。

実物投資と資金調達

設備投資は二つの側面から見ることができます。一つは実際に機械や工場などの実物資産に投資することに伴い生じるものであり、もう一つは設備投資を行うときに付随的に発生する金融面に関するものです。この両者は損益計算書で明確に分離して表示されます。
実物資産に対する投資は大別して増収効果と合理化効果の二つの効果が期待できます。増収効果は生産量の増大や品質の改善により売上高増大を狙ったものであり、合理化効果は生産効率や販売効率の改善により製造原価や販売費および一般管理費の減少を図るものです。増収効果も合理化効果も営業利益の増加を目指します。
一方、設備投資をするには資金調達が必要になり、資金調達に際してコストが発生します。多くの場合、銀行から借入金を起こすことになりますが、銀行に支払う金利は支払利息として営業外費用に計上されます。自己資金で設備投資をする場合は営業外収益の受取利息や受取配当金の減少として表示されます。どちらにしても資金調達関連コストの増加は営業利益には影響を与えず、経常利益から変動することになります。

設備投資の目的は営業利益の増加

設備投資は実物資産に対する効果を期待して行うものであり、金融効果は二次的なものに過ぎません。また、増収や合理化は経営者のコントロールの範囲内にありますが、金融は経営者がコントロールできるものではありません。だから、増収や合理化ができるとするなら設備投資をすべきであり、資金調達関連コストは無視はできないとしても、設備投資の決定因子とすべきではありません。あくまで設備投資は実物資産投資が採算に乗るかどうか、つまり営業利益を押し上げられるかどうかを基準に判断すべきものです。
言うまでもなくマイナス金利は資金調達に関連するものですから、それをもって民間の設備投資が増大することは期待できないと思います。

ひもは押しても効果はない

確かに資金がなければ設備投資ができませんから、資金がないことあるいは金利が高いことが設備投資の阻害要因として作用することはあります。しかし、資金があれば、あるいは金利が低ければ、それで投資が行われるというものではないのです。これを金融の「ひも理論」と言います。金融は引っ張るとき(金融引き締め)には効果を発揮するが、押したとき(金融緩和)はさほど力を発揮できないのです。別の言い方をすれば、金融面でのサポートは設備投資にとって必要条件ではありますが、十分条件ではありません。
政府・日銀が民間の設備投資を促したいのであれば、金融面ではなく実物資産投資が効果を生むような環境を整備することが必要になります。

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