最近、一般人のすき間を活用するビジネスが注目を集めています。いずれもアメリカが発祥ですがUber、AirBnBなどが代表的なものです。
Uberは一口で言ってしまえば、タクシーのネット配車ですが、普通のタクシーに加え、一般人が自家用車を空き時間に利用できるようにしているところが特徴です。AirBnBは「民泊」と訳されるようですが、ホテルや旅館ではない一般の住宅を宿泊施設として利用するものです。こうした個人の所有物を共有するビジネスをシェアリングサービスと呼びます。日本ではまだまだ規制や法制度の問題がありそれほどでもありませんが、欧米などではかなり普及してきています。
シェアリングサービスはネットがなければ成り立たないビジネスであり、現代を象徴とする最先端の業界といえますが、こうした業界でもビジネスのベースには昔ながらの信頼感が必要なところが面白いところです。
ニーズの合致
考えてみれば、発想はとても合理的です。商売をしていない一般人は車も自宅も1日中フルに私用で使っているわけではなく、空いている時があります。所有者は固定資産を遊ばせておくのは無駄ですから、空いている時間帯を使って、少しでもおカネを稼げればという欲望を持っています。一方、専業のタクシーやホテルを使わずとも、少しでも安上がりに移動したい、泊まりたいという人間にとっては、多少サービスが落ちても、一般人の車や自宅が安く借りられるならそれでいいと考えています。両者のニーズをうまく組み合わせることができれば、ビジネスとして成り立つはずです。
従来、こうしたサービスがなかったのは、自分の車や自宅を提供して稼ぎたいと思っている人や、安上がりに移動したい、泊まりたいと思っている人は、どちらも薄く広く存在しているために、両者を結び付ける手段がなかったからです。ネットが普及することにより、広範囲に需要と供給のニーズを結び付けることができるようになったというわけです。
相手の素性が分かっているか
シェアリングと言われると目新しい感じがしますが、振り返ると、自分の所有物を他人に貸すことは昔は頻繁に行われていました。貧しかったということもあったからですが、脱穀機の貸し借りや、隣近所でもらい湯をするとか、コメや醤油などの日用品を融通するということは、一昔前の農村では一般的な光景でした。しかし、豊かになるにつれ排他的なモノの所有が広がるようになり、共同体的貸し借りは衰退し、所有と利用が一致するような経済に移行していきました。その貸し借りがネットの普及とともに洗練された形で復活してきたように思います。
カネが介在してビジネスとして成立しているという点は違いますが、そうした以前の隣組のような村落共同体の生活と現在の最先端のシェアリングサービスは多数の人がモノを有効活用するという点で似通っています。ただ、決定的な相違点もあります。それは自分のモノを利用する他人をよく知っているかどうかです。
隣組の住人は全ての人間が顔見知りで、性格もよく分かっています。だから、モノの貸し借りを安心してできます。しかし、ネット利用の貸し借りビジネスを利用する人はまったくの赤の他人で、場合によっては生活習慣の異なる海外の人かもしれません。タクシーやホテルなどの専門業者なら、まったく知らない人が利用するのは当然のことで、それを前提に施設を作り、料金も定めています。しかし、シェアリングサービスは個人の所有物をよく素性の知らない人に貸すのですから、不安になるのは当然です。その不安をどのようにやわらげるかが、このビジネスの一つの課題になります。人間の感情や性癖などを評価することはコンピュータの苦手とする分野だと思っていたのですが、最近のAI(人工知能)の急速な発展を見ると、そうしたことも克服できるようになるのかもしれません。
技術が発達し、どのような新しいビジネスが誕生しても、ビジネスの基礎には信頼がなければならないということは、いつの世でも変わらない真理です。