銀行は預金者から預金を預かり、資金を必要とする人(主として企業)に貸し付けることが本業です。そこから、銀行には二つの役割があることが分かります。一つは預金者から預かった預金を利息を付けて確実に預金者に返還する預金者保護であり、もう一つは資金を貸し付けた企業を成長させる地域産業の育成です。そのどちらに重点を置くかで、銀行の融資姿勢は異なってきます。これまでは、どちらかというと、預金者保護に重点が置かれていましたが、銀行に対する期待は変わりつつあります。さて、その期待に銀行は応えられるでしょうか。
預金者保護と自己資本比率
貸し付けた資金が貸し倒れになると、預金者に確実に預金を返還できなくなってしまいますから、銀行は何より貸し倒れを回避することを優先して融資を行ってきました。その結果、融資の返済財源は確実性を重視し、以下のように考えます。
銀行が融資に際して、最も重視する指標は貸借対照表から算定される自己資本比率(自己資本/総資産)です。自己資本比率は企業が今後どう動いていくかということには興味はなく、現在所有している(直近の決算書で表示される)財産から返済できる返済力を計算しようとするものです。将来予想は不透明ですが、現在所有している財産は確実です。自己資本比率をベースに返済の確実性を評価して、将来の不確定性に対しては物的担保を取り、保全するというのがこれまでの銀行の基本的な融資姿勢でした。
旧来型融資に対する批判
しかし、このような銀行の旧来型融資姿勢に対し、次のような批判が起こっています。過去の実績中心の評価だと、老舗の企業には有利だが、これから成長する新興企業には不利になるとか、今までの実績は不振だったが、リストラしてこれからよくなる企業を判別することができない、あるいは、こうした硬直的な融資姿勢だから貸し出しは伸びず、地域も活性化しない、といった批判です。
そこで、過去の実績としての財務指標よりも、企業の将来性を判断する事業性評価に重点をおくべきだといった議論が金融庁を中心に沸き起こっています。財務指標でいえば、過去の実績ではなく、将来のキャッシュフローを重視すべきだという主張です。将来キャッシュフローは将来損益計算書が描けなければ構築できませんから、銀行員に求められる能力は過去の貸借対照表の分析ではなく将来の損益計算書の予想であるということができます。
ローリスク・ローリターンかハイリスク・ハイリターンか
しかし、こうした融資姿勢の転換は口で言うほど簡単ではありません。なぜなら、融資の根幹に関わる哲学が違うからです。自己資本比率を重視する融資姿勢は確実性を重視し、危険が少ないローリスク・ローリターンを目指すものです。一方、将来キャッシュフローを重視する融資姿勢のポイントは将来の事業性ですから、100発100中というわけにはいきません。多少の失敗には目をつぶり、大化けする企業を見出すハイリスク・ハイリターンの世界に入ることになります。
野球で言えば、ヒットで出たランナーを送りバントとスクイズで確実に1点を取るスタイルを狙うのか、あるいは、最初から大振りして、場合によっては三振もするかもしれないがあくまでホームランを狙うのかです。つまり、アベレージヒッターかホームランバッターかの違いです。
銀行は長い間アベレージヒッターであることをよしとし、そういう人間を育ててこようとしてきました。また、銀行に入ろうとする人間もどちらかといえば、アベレージヒッターを目指そうという人間が多いはずです。そんなことを考えるとホームランバッターへの転換は容易ではないと思うのです。