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「追い込まれてする減損と余裕の減損」

2017/03/01

 東芝の原発事業に関する減損損失の記事が連日新聞紙上を賑わせています。その損失規模は数千億円に達し、金額次第では債務超過の危険性もあると言われています。債務超過になると、金融機関による支援が難しくなりますから、東芝は虎の子の半導体事業の一部売却など解体的出直しが迫られている状況です。
東芝に限らず、期末に近づくと、「減損損失」の記事が目に付くようになります。減損損失は、東芝では当然のことながら将来に対する不安材料、すなわち否定的ニュアンスで報道されていますが、肯定的ニュアンスで報じられる場合もあります。たとえば、ソニーは映画事業の不振で1000億円以上の減損が発生すると発表しましたが、将来に向けて好材料と評価している市場関係者もいるようです。同じ減損でも、どうしてこのように評価が違うのでしょうか。そこで減損の二つの側面を検証してみましょう。

減損会計の二つの側面

減損会計とは、企業は収益を上げるために資産に資金を投下しますが、その資産の収益性が低下して、投資金額の回収が見込めなくなった場合、当該資産の帳簿価額を切り下げ、費用として計上する会計処理です。ここから、減損会計には二つの側面があることが分かります。一つは損益計算書に減損損失を費用として計上することであり、もう一つは貸借対照表の資産価格を切り下げることです。減損会計は過去の負の遺産の解消であることは間違いありませんが、そのどちらを重視するかで、会社に対する見方は変わります。
損益計算書の減損損失は当然、当期純利益の悪化を招き、損失金額が大きくなれば純損失になり、自己資本を侵食し、さらに巨額になれば東芝のように債務超過の懸念も生じます。したがって、損益計算書の費用処理は当然、マイナスイメージを醸成します。一方、貸借対照表の資産価格の切り下げに焦点を当てれば、将来収益に対するプラスイメージを生みます。というのは、建物、機械等の有形固定資産の切り下げは将来の減価償却費の減少となりますし、定期償却を行っているのれんであれば、のれん償却費の減少を招くからです(日本の会計基準ではのれんは定期償却を行いますが、米国会計基準あるいはIFRS(国際会計基準)では定期償却を行いません)。つまり、貸借対照表の資産価格の切り下げは将来利益の増加要因として働きます。
東芝の場合は損益計算書の費用処理が、ソニーの場合は貸借対照表の資産価格の切り下げがクローズアップされているというわけです。その受け取り方の違いは、両社の現状の体力差から生じます。ソニーの場合は映画事業の減損損失が出ても、他の好調な事業の利益でカバーして、黒字を維持でき、自己資本のマイナスを生じさせないのに対し、東芝では前期までの不祥事でもはや体力を使い果たし、その上で今回の減損処理により、限界まで追い込まれてしまうからです。

早期の費用処理

キャッシュアウトを伴わない、見積もりと判断に依存する減損のような会計処理には実施時期と実施金額にある程度の幅が存在することは否めません。それを決めるのは経営者です(会計監査人はその妥当性を検証します)。
追い込まれてする減損処理はさらに会社を弱らせるのに対し、余裕のあるうちの減損処理は将来の展望を開くものと理解されます。東芝でも財務体力に余裕のあるもっと早期に減損を行う機会はありました。しかし、経営陣が原発事業の状況悪化の表面化を恐れズルズルと引き延ばしたため、今日のような事態をむかえています。資産の費用処理は、許容される範囲で、できるだけ早く余裕のあるうちにしておくべきことを東芝の事件は教えています。

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