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「重要なのはキャッシュの使い道」

2017/04/03

 東芝の混乱は続きます。かつては日本を代表する折り紙付きの優良企業であった東芝が果たして再建できるのか、あるいはこのまま衰退の道をたどってしまうのかは、当事者でなくても気になります。東芝の再建のポイントは何なのか考えてみましょう。

損益とキャッシュフロー

東芝にはいくつもの事業がありますが、有力事業であったメディカルを昨年売却したため、残された主たる事業は原発と半導体ということになります。報道によれば、原発はキャッシュフローを生みにくい事業であるのに対し、半導体は東芝の中では最大のキャッシュフローが期待できる事業です。会社の再建という点から言えば、キャッシュフローを生まない事業を切り離し、キャッシュフローを生み出す事業を残すのが常道です。しかし、東芝の選択は逆でした。虎の子の半導体事業を切り離し、お荷物の原発事業を抱え続けることにしました。どうして、こうした決断をしなければならなかったのか。決断の背景には原発事業における経営上や政治的問題もあるようですが、本稿では会計的観点に絞って考えてみます。つまり、「会計上の損益とキャッシュフロー」のどちらを優先するかの問題です。

債務超過は損益の問題

原発事業における巨額の減損損失の計上で、東芝の17年3月期決算は債務超過が避けられないようです。東証規定では、債務超過になると1部から2部に降格し、2期連続の債務超過になると上場廃止になってしまいます。そこで、東芝の目下の最大の課題は上場を維持するために、連続債務超過を回避することにあります。
債務超過を脱するためには多額の売却益を計上しなければなりません。事業の売却額は将来キャッシュフローの現在価値として計算されます。もし、会社の再建を優先しキャッシュフローを生まない原発事業を売るとすれば(購入者がいるとすればの話ですが)、その売却額は低くなり、帳簿価格を下回り、売却損が出ると予想されます。そうすると、債務超過額は拡大し、上場維持は難しくなります。売却益が計上できるのは、将来キャッシュフローの現在価値が大きく計算される半導体部門ということになります。上場維持を至上命題とする限り、虎の子の半導体部門の売却という結論にならざるをえないのです。しかし、そうすると将来の再建に不可欠の最大のキャッシュフロー創造部門を手放すということになり、将来の再建に暗雲が漂うのです。
東芝の半導体事業の売却という経営判断は会計上の損益を優先し将来キャッシュフローを犠牲にした結果に他なりません。その結果、キャッシュフローを生みにくい原発を抱えざるをえなくなり、説得力のある再建策を描きにくくなっています。

キャッシュフローの使い道

経営を決めるのは会計上の損益ではなく、キャッシュフローです。そこで、キャッシュフローに絞って東芝の再建策を見てみましょう。
東芝では半導体部門を主力事業に据え、将来、継続的にキャッシュフローを獲得する道を捨て、ここで半導体を切り離して、現在多額のキャッシュフローを獲得する道を選択したことになります。そこで、半導体部門売却で獲得した膨大なキャッシュをどう使うかが東芝の将来を決めることになります。
獲得したキャッシュを原発事業に投入し、過去の膿を出し切り、原発事業をキャッシュフローを生み出す事業に転換できる青写真を示せれば、再建の道筋をつけることができたと言えます。キャッシュを投入するのは、原発事業でなくても他の事業でも構いません。とにかく獲得したキャッシュで残された事業をどう立て直すか、あるいは魅力のある新事業を切り開くことができるかが将来の帰趨を決めるのです。ところが、ここで獲得したキャッシュが事業に有効に使えず、単に金融機関への債務返済に充てられるだけの結果に終わってしまえば、東芝の将来はまったく暗いものとなるでしょう。
報道を見る限り、目先の債務超過回避という会計上の損益ばかりが優先し、本筋である長期的なキャッシュフローの使い道の議論が全く見えてこないのが気がかりです。

(注記)
本コラムは2017年3月10日現在の情報に基づいて記述していますが、ご承知の通り、東芝の情勢は刻一刻変動しています。3月31日の状況では、半導体事業は当初予定通り売却しますが、原発は米国子会社ウェスティングハウス社に対し連邦破産法第11条の適用を申請し、海外原発事業を連結から切り離し、原発事業は国内中心になる見込みです。
本来であれば、最新の状況を盛り込むべきなのかもしれませんが、最新の情報を忠実に記述しようとすると、かえってこのコラムで訴えたい趣旨が伝えにくくなると考え、当初の原稿のまま掲載することにしました。
したがって、東芝の事業体制は本コラムに記載した内容と異なっている部分もあることをご承知おきください。

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