経営計画は将来のために作成することはいうまでもありませんが、会計(現在の決算書)にも重大な影響を与えるようになってきていることに注意しなければなりません。
経営計画は自社の経営資源や実力を十分に踏まえた上で作成します。過去の実績と懸け離れた経営計画は絵に描いた餅です。その意味で現時点での決算書をベースに経営計画を作るという、過去から未来への道筋は分かりやすいのですが、近年注目されているのは経営計画から決算書という未来から過去に時間が逆流する道筋です。なぜなら、将来の収益力の見込みが、決算書の数値を決定する会計項目が増えてきたからです。その代表が税効果会計と減損会計です。
税効果会計
税効果会計とは会計計算と税務計算の差異を調整する会計手法です。たとえば、売掛金に対して、税務上は損金要件を満たしていないにも関わらず、会社が実質的に回収不能だと判断して、税務上損金と認められる以上の貸倒引当金を決算書で繰り入れたとします。すると、会計上の利益は小さくなりますが、税金は多く支払わなければなりません。したがって、会計上の利益と支払う税金がアンバランスになってしまいます。ただ、将来この売掛金が税務上でも回収不能と認められ、損金と認定されたときには、その分税金は減少しますから、当期多く支払った税金は将来の前払いと考えることができます。ですから、その分は繰延税金資産という前払勘定に計上して、会計と税務のアンバランスを調整しようというのが税効果会計です。
しかし、どんな場合にも繰延税金資産の計上が認められるわけではありません。将来、売掛金が税務上損金と認められ、税額減少効果が発揮される時に、税額減少に見合う税金を納めるだけの利益(税務上の所得)があることが必要になります。将来利益が予想できなければ、繰延税金資産は計上できません。また、当初は将来利益があるからということで、繰延税金資産を計上していたものが、将来利益が出なくなると予想が変わったときには、計上済みの繰延税金資産の取り崩しが迫られます。
減損会計
減損会計とは企業が保有する固定資産の収益性が低下して、その資産への投資金額の回収が見込めなくなった時に、下落部分を固定資産の帳簿価格から落とす会計処理です。
減損会計では、土地、建物やM&Aを行ったときに発生した超過収益力としてのれん等の固定資産が将来どれだけキャッシュフローを稼げるかを予想しなければなりません。その算定されたキャッシュフローが固定資産の帳簿価格から大きく下回ると、減損損失を計上しなければなりません。
精緻な経営計画の必要性
税効果会計における将来利益予想でも、減損会計における将来キャッシュフロー予想でも、ベースには経営計画が存在します。
過去の実績をベースに将来計画を作成し、将来計画が過去の実績に影響しないのであれば話は簡単ですが、税効果会計も減損会計も、将来計画が過去の実績表示である決算書に影響を与えるという二重構造になっていることに注意しなければなりません(当然、過去のキャッシュフロー実績には影響を与えませんが、会計計算としての決算書表示に影響を及ぼすことになります)。つまり、甘めの経営計画の作成は、将来だけではなく、現在の決算書も嵩上げできることになります。
そうした構造の下では、特に業況が悪くなると、楽観的な経営計画を作成したいという誘因が強く働きます。しかし、それを行うと、将来本来の実力が露呈した時、その時点の業績不振に加え、繰延税金資産の取り崩しや固定資産の減損等の過去のツケを一気に払わなければならなくなり、将来の決算書が著しく傷つくことになります。場合によっては、東芝のように企業を存亡の淵に追い込むことになりかねません。
どんなに事態が悪化しても、経営計画は希望的観測ではなく、キャッシュフロー獲得能力をベースに精緻に作ることが会社を守ることにつながります。