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「不毛な議論を招く軽減税率」

2018/12/03

 政府は、既定方針通り2019年10月から消費税率を10%に引き上げる予定だと発表しました。そういいながらも、「リーマン級のショックがあれば別だ」と、相変わらず一定の留保を置いていますから、再度の延期もまったくないというわけではなさそうです。
 消費税率を10%にするときには軽減税率を導入するということになっていますから、軽減税率の議論が再燃しています。そうした報道を目にするたびに、軽減税率が巻き起こす不毛な議論にうんざりするのは私だけではないでしょう。

ばかばかしい事例研究
 軽減税率とは一般の消費税率が10%であるのに対し、食品を中心とした一部の商品に対してだけ税率を8%と低く据え置くものです。しかし、軽減税率と一般税率の境界が曖昧なケースは多々あり、その線引きは簡単ではありません。
 よく話題になるのは、最近増えてきたコンビニでのイートインの取り扱いです。食品の購入は軽減税率の8%が適用されますが、外食は一般税率の10%になります。コンビニで食品を買って、そのまま持ち帰れば食品の8%ですが、イートインで食べれば外食の10%になります。そうすると、店外にあるベンチで食べたらどうなる、あるいはベンチに座らず中腰で食べたらどうか、はたまた、買うときは持ち帰りしようと思っていたが、途中で気が変わり、イートインで食べることに変更した場合はどうなるのか、といった漫画のような事例研究が後を絶ちません。

税制で重要なのは公平性
 税額の納付は国民の義務ですが、納める税金はできるだけ少なくしたいと思っている人が大多数です。そうした素朴な庶民感情を考えれば、税制で最も大切なことは公平感だと思います。力のある人や特別にコネのある人、あるいはズルをする人が得をするような税制であってはなりません。つまり、正直者がバカを見る税制が最も望ましくない税制だと私は思います。
 その意味で税制は誰にでも分かるように簡素、簡明であることが求められます。消費税でいえば、一律の税率が最も簡明です。複数税率にすると、境界の曖昧さをついて、何とか安い税率を適用しようとする力が働き、公平性が阻害されるからです。軽減税率は消費者、事業者双方の公平性を著しく阻害します。上記コンビニの例は消費者の公平性の問題ですが、事業者側についても次のような問題があります。

なぜ新聞が軽減税率に
 食品に対する軽減税率というのは、実態上の効果はともかく、低所得者保護という建前から、その意図するところは分かります。しかし、新聞にどうして軽減税率が適用されるのかはよく分かりません。低所得者の新聞購読率が高いとはとても思えませんから、別の理由付けが必要になります。一応、その公共性や活字文化の維持・普及が名目となっているようですが、多くの活字媒体の中でどうして新聞なのか、あるいは同じ新聞でも、なぜ駅売りは除かれ、週2回以上の宅配だけなのかは、いくら説明されても納得できません。何らかの政治的働きかけや裏取引が功を奏したのではないと疑ってしまいます(新聞は自らが軽減税率を適用されるため、軽減税率の不合理性を厳しく追及できないと言われています)。
 こうした特殊分野を認めると、自社の取扱商品にも軽減税率を適用しようとしてロビー活動が活発化して、力の強いものやコネクションのあるものが得をするといった事態を招きかねません。

税制はシンプルが望ましい
 そもそも軽減税率といったところで、税率が0%ならまだ分かりますが、一般税率10%に対して、たかだか8%です。たった2%程度のことで、これだけの混乱を招く制度を導入するのはまったくナンセンスだと私は思います。低所得者保護というなら、一律10%の税率にしたうえで、食品に対する2%に相当する軽減税率分(約1兆円)を直接低所得者に給付する方がはるかに効果的なことは自明です。 繰り返しますが、多くの国民が関係する税制は簡素・簡明であることが一番です。政府・税務当局は消費税率を上げることばかりに執着するあまり、最も肝心な税金の魂を売り渡しているような気がしてなりません。ここでの軽減税率導入は「アリの一穴」となり、将来その不合理性を益々拡大させることを危惧します。

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