結果にコミットする」のコマーシャルで有名なライザップが、業績の下方修正に追い込まれ、事業の再編を進めています。
ライザップは業績拡大のために企業買収を積極的に進めていましたが、決算において企業買収によって生じた「負ののれん」の会計処理が注目されました。そこで、負ののれんによって生じる利益とは何なのか、考えてみます。
負ののれんとは
株式を買収して、会社をグループ化するときの会計処理は個別決算と連結決算で異なります。個別決算では買収金額を子会社株式として資産に計上して終わりです。ここでは買収に伴い、損益は発生しません。
一方、連結決算では買収した子会社の資産、負債を連結決算に取り込むために、結果的に子会社の純資産(資産、負債の差額)を購入するという形をとりながら、会計処理することになります。つまり、連結決算では株式の買収金額と子会社の純資産額との差額、つまり「のれん」が発生します。こののれんは会計基準により処理の方法は異なりますが、最終的に損益とつながります。
たとえば、買収する子会社の純資産が200で買収金額が300であれば、のれんが借方に100発生します。借方に発生するのれん(正ののれんともいいます)は、日本の会計基準では20年以内で定期償却し費用として計上しますが、IFRS(国際会計基準)では定期償却はありません(日本基準、IFRSとものれんの価値がなくなると判断されれば減損をしなければなりません)。
逆に、純資産200の会社を100で買収すれば、のれん100が貸方に発生します。貸方に発生するのれんを負ののれんといいます。負ののれんの会計処理は日本基準もIFRSも発生した年度に「負ののれん発生益」として一括して利益処理されます。ただ、違うのは日本基準では負ののれん発生益は特別利益として計上されますが、IFRSでは特別損益項目がないので、営業利益に組み込まれることにあります。
ライザップでは会計基準としてIFRSを採用していたので、負ののれんで営業利益を押し上げることを狙いに、買収金額が純資産額より低い企業を狙って、企業買収を行っていたのではないかということが疑われていたわけです。
常識とは違う損益
上記で説明した負ののれんに伴って生じる利益の出現の仕方は、一般常識とは違うと感じられたと思います。というのは買った時に「負ののれん発生益」という利益が発生しているからです。常識的には、モノを買った時には、原価が確定するだけで損益は生じません。損益は売ったときに、売却価格と原価との差額として発生するのが普通です。常識とかけ離れたこの会計処理はどのように理解すればいいのでしょうか。
負ののれんが発生して利益が生じるのは、会計上の処理に過ぎません。連結会計上、子会社の純資産を買収するという形で処理せざるを得ないことから発生する利益です。確かに会計上は利益になりますが、キャッシュフローを伴わない、見かけの利益です。ここで利益が出たからといって、儲かったということではありません。
企業買収の時点では買収の原価が確定したということに過ぎず、どれだけ儲かったかを判定できる段階にはないのです。儲かったかどうかは、一般常識と同様に、投下した金額に比べて回収が多いかどうかによります。つまり、買収企業がこれから稼ぐキャッシュフローが、買収するのに要した金額に比べて、多いかどうかによるのです。
したがって、買収時点で負ののれんが生じて会計上利益が生じたとしても、それは見かけだけのことですから、それを目的にM&Aを行うのは誤った戦略ということになります。
企業買収における投資判断の基準は、その他の投資と同様に実にシンプルです。それは現在投下したキャッシュを将来回収できるかどうかです。負ののれんに伴って発生する会計上の利益に惑わされてはいけません。