予定どおり10月に消費増税があると、消費の落ち込みが予想されます。そのため、消費を盛り上げようとして、様々な経済対策が実行されようとしています。クレジットカード利用に伴うポイント還元、プレミアム商品券の交付、あるいは車や住宅などの購入を対象とした各種の減税も用意されています。こうした対策により消費を喚起しようというのが政府の狙いなのですが、それに対して我々消費者はどのように対応すべきなのでしょうか。
確かにこれらの対策は、定められた期間に、定められた方法で、定められた物品を購入すれば、そうでない場合に比べて金銭的に有利になるように設計されていますから、この機会に先々消費されると予想される分も含めて多めに購入した方がいい、と考える人がいてもおかしくありません。しかし、私はそうした考え方には賛成できません。
京セラフィロソフィーで有名な稲盛和夫氏も次のように言っています。
『京セラでは、原材料などの購買について、毎月必要なものは毎月必要な分だけ購入するようにしている。場合によっては、毎月ではなくて、毎日必要な分だけを買うようにしているケースもある。私はこれを「一升買い」と呼び資材購入の原則としてきた。たとえ、一斗樽でまとめて買えば安くなりますよと言われても、今必要な一升だけを買うようにしてきたのである。
(中略)
使う分だけ当座買いするから、高く買ったように見えるが、社員はあるものを大切に使うようになる。余分にないから、倉庫も要らない。倉庫が要らないから、在庫管理も要らないし、在庫金利もかからない。これらのコストを通算すれば、その方がはるかに経済的である。セラミックのように腐らないものならまだしも、腐るものを扱う場合には、気がついてみたら使えなくなっていたということになりかねない。』(「稲盛和夫の実学」より)
モノを購入する時の思考パターンを考えてみましょう。まず、自分がそのモノを必要としている状況があり、その必要性をベースに、モノの値段の妥当性を判断して、購入を決断するというのが普通です。必要性は「内的要因」、モノの値段は「外的要因」といってもいいかもしれません。稲盛氏がここで言っているのはモノを購入するときに大切なのは外的要因ではなく、内的要因だということです。自身の必要性を十分検討することなく、モノの値段を主体にして購入を判断することは、正しい消費行動とはいえません。
つまり、政府が行おうとしている経済対策はモノの値段を引き下げることで消費を喚起しようとするものですが、それに安易に乗るのは考え物だということです。モノを買うときのベースはあくまで自分自身における必要性です。必要性が先にあり、その必要性と見比べた時、採算が合うかどうかという判断をして、モノを購入するというのが手順です。モノの値段が安いから必要性を探すというのは正しい考え方ではありません。確かに政府の対策でモノの値段が下がっていれば、モノを購入しやすくなるということはあるでしょう。しかし、それはあくまで必要性があっての話です。必要性の吟味をおろそかにしたまま、モノの値段だけで安易にモノを購入しない方がいいということです。
スーパーに行って、5%引きや10%引きの値札があるので思わず買ってしまったが、家に帰ってみたら、自分が欲しかったものではなかったという経験がある人もいるかと思います。これは内的要因を軽視して外的要因に振り回された結果です。消費行動は外的要因に左右されないことが大切です。
本年は消費増税もあり、外的要因が大きく変動します。こうしたときこそ、モノを買うときには、外的要因に踊らされることなく、必要性をしっかり吟味することが必要だと思います。(そうすると、政府の思惑通りには消費は増加しないことになるのですが。)