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「消費の最適解が分からない」

2019/10/21


 10月から消費税率がアップしますが、税率アップに伴い生じると予想される消費低迷に備えて、政府は様々な消費喚起策を用意しました。果たして、こうした施策が政府の思惑通り消費を喚起するのかが注目されますが、私は消費の盛り上がりは期待できないのではないかと思っています。一般的には、実質賃金が上がらないとか、年金が不安だとかいった経済的要因に焦点が当たると思いますが、私がここで注目したいのは、消費を喚起すべく導入した政策そのものが引き起こすであろう混乱に伴う消費低迷です。

軽減税率
 まず、消費喚起策の前に、本欄でも以前に指摘した軽減税率に内在する分かりにくさがあります。消費税の逆進性の緩和を理由に、一般税率は10%に引き上げられるのに対し、食料品を中心にした商品は税率が8%に据え置かれます。軽減税率が0%なら、逆進性緩和の効果はあるかもしれませんが(そうであっても、私は複数税率の設定そのものに反対ですが)、今回はその差はたった2%であり、大した効果は期待できそうにありません。しかし、それがために引き起こす混乱は膨大です。
 よくいわれるように、外食は10%なのに持ち帰り食品は8%であるため、イートインのあるコンビニや、持ち帰りできるファーストフードは線引きが容易ではありません。その他、みりんは食品なのか酒類なのか、リポビタンDとオロナミンCは税率が違うなど、困惑するに違いない、笑ってしまうような事例は山ほどあります。これだけでも消費現場に相当の混乱が発生します。

キャッシュレス・スポイント還元
 その上に、今回はキャッシュレス対応のポイント還元の煩雑さが火に油を注ぎます。やれクレジットカードだ、Suicaなどの電子マネーだ、スマホなどのQR決済だと、ポイント還元に対応するキャッシュレスの手段は多様にあります。小売店はそれぞれに対応しなければなりません。場合によっては、半年間の時限立法だからという理由で、キャッシュレス対応をしないという選択をする小売店もあるようです。そして、追い打ちをかけるように、その還元率が中小事業者と大企業では5%と2%で異なります。さらにその上に、その場で還元率分を割り引く店もあれば、後でポイント還元する店も出てきます。
 今までに経験しなかったこれだけのことが10月から一挙に到来します。この複雑さに小売店は言うに及ばず、消費者はついていけるのでしょうか。

変数が多くて最適解がみつからない
 消費者は少ない所得の中で、できるだけ有利な消費をしようと、地道な努力を続けています。主婦は新聞は読まなくても、折込チラシを丹念に見比べ、1円でも安いところで買い物をしようと奮闘しています。これまでなら、掲載される商品価格を単純に見比べるだけでよかったのですから、簡明でした。ところが、10月以降、これだけ複雑な消費体系になると、どこで何を買うのが最終的に最も有利なのか、そう簡単には分からなくなります。買おうとする商品が軽減税率適用か否か、買おうとする店のキャッシュレス対応はどうか、そしてその還元率は何%なのか、などの情報を把握したうえで、判別しなければならないからです。数学でいえば、変数が多すぎて、最適解を得ることができない状況です。
 「最適解を見つけた」という安心感は購買意欲を刺激しますが、最適解かどうか確信が持てなければ、消費意欲は減退するに違いありません。
 今回の軽減税率や、キャッシュレス対応のポイント還元は、その点に関する配慮に欠けているように思えてなりません。


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