スルガ銀行の不正融資問題が決着に向けて動き出したようです。その決着の方法は我が国の金融業界におけるローンのあり方に一石を投じているにように思います。
異例処理か?
スルガ銀行再建の最大のネックは、不正融資により融資を受けた借り手側の借入金の処理でした。融資の対象となったシェアハウスは入居者が減り、返済の原資となるべきキャッシュフローが不足します。通常のキャッシュフローで借入金の返済ができなければ、担保になっている融資対象物件を売却して返済しなければなりません。しかし、物件価格は下落しており、当然、売却代金は借入金額を下回りますから、物件を売却しても借入金の完済はできず、売却代金を控除した借入金だけが残ることになります。当初の融資契約に従えば、残額の借入金の返済義務は借入人が負い続けます。つまり、融資対象物件がなくなってしまっているのですから、借入人はそれ以外の不動産収入や給与収入から返済しなければならず、それができなければ破産等を迫られることになります。
しかし、それでは借入人は納得できません。元々その物件を購入したのはスルガ銀行の不正融資があったからであり、責任はスルガ銀行にあり、銀行側が損失を被るべきだと主張していました。
それが、2019年11月21日の日本経済新聞によれば、スルガ銀行は借入人の要望通り、物件の返却を条件に、残った借金を帳消しにする対応で処理する方向のようです。スルガ銀行としてはこの問題をいつまでも抱え続ければ再建の足枷になるとの判断から、今回の対応に至ったと考えられます。
新聞では「異例の対応」と表現していました。確かにこれまでの日本のローンの世界では「異例」です。しかし、アメリカなどの諸外国を見れば、決して異例ではありません。というのは、この処理はアメリカでは一般的なノンリコースローンに基づいた処理スキームだからです。
リコースローンとノンリコースローン
ローン(融資)は、リコースローンとノンリコースローンに分けられます。リコースとは「遡及する」という意味です。融資の対象となった物件や事業のキャッシュフローで返済ができなくなったときに、借入人に遡及して、あくまで借入人に返済義務を負わせるのがリコースローン、借入人に遡及せず、不足分は融資した側の銀行が被るのがノンリコースローンです。住宅ローンでは、日本ではリコースローンが、アメリカではノンリコースローンが主流となっています。
リコースローンとノンリコースローンの違いは突き詰めると、融資対象である住宅の値下がりや毀損リスクを誰が負うのかということに帰着します。リコースローンは住宅がどんなに値下がりしても、あるいは無くなってしまっても、カネを貸した側は借入者に返済を請求できるのですから、物件の値下がりリスクは借入人が負うことになります。一方、ノンリコースローンは物件の値下がり、毀損リスクはカネを貸した金融機関が負うことになります。
融資する銀行は、リコースローンであれば最終的負担は借入人に帰着しますから、物件の収益性の検証が甘くなりがちですが、ノンリコースローンだと、価格下落リスクを自ら負わなければなりませんから、厳密な審査が要求されます。スルガ銀行もリコースローンだったから、融資対象物件の収益性や将来性の評価がいいかげんになってしまったという見方もできます。もし、ノンリコースローンであったら、もっと厳しく審査したに違いないからです。
ノンリコースローンの拡大
スルガ銀行の融資契約は当初はリコースローンだったのですが、最終処理としてはノンリコースローンに切り替えた形になります。そんなことなら、最初からノンリコースローンにしておけばよかったのではないかと思うのは私だけではないでしょう。
地震や台風で融資対象である住宅が毀損することがあります。そのとき、リコースローンだと古いローンは残ったまま、新しいローンを組んで住宅を新築する二重ローンの問題が浮上します。この場合もノンリコースローンであれば、借入人の負担は軽減されます。無論、その分、融資する側の銀行の負担は増大します。銀行は金利を高くしたり、保険をかけるなどして、カバーすることになるでしょう。
私は、日本の住宅融資でもっとノンリコースローンが普及すべきなのではないかと思います。日本の金融はマイナス金利になるほど、資金需要不足なのですから、資金需要者である借り手の側に立ったローンメニューの多様化を考えるべきでしょう。
スルガ銀行の不正融資事件は、信用を何より大切にすべき銀行員が書類の改竄を行っていたという、銀行員の堕落を印象付ける唾棄すべき事件でした。だからこそ、銀行もこの程度の教訓をくみ取らなければ被害者は浮かばれないのではないかと思います。