中小企業からグローバル企業まであらゆる経営課題に解決策を

「日本経済を甘やかす低金利政策」

2022/12/01

 高まるインフレへの警戒感から、アメリカを筆頭に多くの欧米諸国が金融政策を転換し、利上げに転じています。一方、日銀は、我が国のインフレは欧米ほどではないこと、及び経済状況が一向に好転しないことなどを理由に、かたくなに金融緩和姿勢を崩しません。円安を阻止するためには金融引き締め、すなわち利上げが必要との意見も根強いのですが、この状況で利上げをすれば、日本経済に深刻な打撃を与えることは間違いありません。つまり、今の日本経済は低金利でしか生きていけなくなっている状況にあるといえます。
 資本主義における経済行為とは、財源の制約を背景に、多数の選択肢に優先順位をつけながら、行うべき事業や購入すべき資産を取捨選択することだ、ということができます。ところが、大量の資金供給を低金利で行う金融緩和は、以下に述べるように、その優先順位を曖昧にして、選択を不要にすることで現状維持に安住させ、その結果、将来の経済発展を阻害しているように思います。

財政支出...大砲もバターも
 低金利・大量資金供給の恩恵を最も受けているのは国家財政です。国債発行残高は1000兆円を突破、国家債務の対GDP比率は250%を超え、先進国ではダントツの水準にあります。そうした状況でも、財政を組むことが出来るのは低金利のおかげです。ただ、それが逆に放漫財政を許容しているともいえます。
 財政を考えるときに、よく出てくるのは「大砲かバターか」という言葉です。大砲は防衛の、バターは民生の象徴です。不穏な国際情勢から防衛予算の増大が求められ、一方、コロナ禍で苦しむ国民生活支援も必要になります。財政はそのどちらかを選択しなければならないというのです。しかし、それは財源に限りがあるからこその話です。金利がほとんどゼロに近く、しかも最終的には日銀がその購入を約束している国債を財源にすることができれば、無理に「大砲かバター」を選択する必要はなく、「大砲もバターも」どちらも手にすることができます。こうした財政制約が緩い状況だから、バラマキ型の無駄な支出が可能となり、日本の財政は肥大化してしまっています。この状態が永遠に続くのであればそれでもいいのですが、いつかは必ず限界が来ます。資金が不足し金利が上昇する事態となれば、「大砲かバター」を今よりももっと厳しい環境下で、より苛烈な形で選択せざるを得なくなります。

民間企業...ゾンビ企業の温存
 長期間続く低成長の下で、金融機関は貸出先に枯渇し、収益性に問題にある企業にまで、低金利で多額の融資を行っています。近年ではコロナ禍対応のため実質無利子、無担保の「ゼロゼロ融資」まで創設されました。
 金融には産業の新陳代謝を促す機能も期待されています。金利負担に耐えられない低収益の企業には退出してもらい、新しい成長性が高い企業が参入し、人的、物的資源を低収益企業から高収益企業に移動することにより、経済は成長することができます。ただ、新陳代謝機能を十分に発揮させるためには、金融の量的制限とある程度の金利が必要です。しかし、現在のような大量の低金利融資が蔓延すると、低収益企業が温存されてしまい、成長企業への資源移転がうまくいきません。もし、ここで急に金利が上昇すれば、人的、物的資源の受け皿になるべく成長企業が十分に存在しないまま、低収益企業が退出しなければならなくなってしまいます。

選択を迫られる局面は来るか
 このように、日本経済は低金利のぬるま湯の中で、厳しい選択を迫られることなく、何となく生存できている、といってもいい状況です。本来アベノミクスでは、金融緩和で時間稼ぎをしているうちに、成長戦略を実行するはずでした。しかし、肝心の成長戦略が起動しない中で、時間稼ぎであるはずの低金利の金融緩和だけが継続し、経済全体がそれに甘える体質となってしまいました。
 金融緩和が続く限り、現状維持はできるかもしれませんが、いつまでもこの状況を続けることはできません。今の金融緩和は病巣を膨らませながら、解決を先送りにしているに過ぎません。今は日銀が主体的に金融政策を判断できていますが、国債発行が累増し国内貯蓄を食い潰してしまうとか、あるいはその前に個人貯蓄が海外に流出するキャピタルフライトが本格化すれば、資金不足になり、マーケットに追い込まれる形で利上げせざるをえなくなる可能性もあります。そうなると、より厳しい選択を迫られます。
 先般のイギリスのトラス前首相の財政政策に起因する金融市場の混乱を見れば、政府も民間企業も、そうしたことがあることは想定しておく必要はあるでしょう。

執筆者

最新の記事