今月は、ワンマン経営について考えてみたいと思います。
経営コンサルタントの 一倉定氏は、『一倉定の経営心得』(日本経営合理化協会出版局)の中で、「ワンマン経営とは、社長が全てのことに権力をふるって勝手なことをすることではなく、社長ただ一人が事業経営の全ての責任を負うということである。ワンマン経営のないところ、真の経営などあり得ないのである。」と喝破されています。
「中小企業がつぶれた時の責任は、明らかに『社長ただ一人』にあり、文字通り『ワンマンの責任』である。ワンマン決定は権力の現れではない。逃れることのできない責任の現れなのであり、決定の大原則である。全責任を負う者が決定するのが当然である。」というのです。
つまるところ、「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、社長の責任である」という有名な言葉を残されています。
「社長が知らないうちに起こったことでも、結果に対する責任は、全て社長がとらなければならない。決定をする社長は、その苦しさに耐えなければならないという宿命を背負っている」とも言われています。
多くの社長の皆さんは、会社の業績責任、人材を扱うことの難しさなど、様々な責任に対する不安について、究極的には常に「孤独感」を内
に秘めて経営を行っていることと思います。
このような状況下で、どのように意思決定を行っていくべきかについて、二人の先人経営者の言葉を紹介します。
お一人目は、松下幸之助氏の「衆知結集全員経営」です。
「衆知を集めた全員経営。これは、私が経営者として終始一貫して心掛け、実行して来たことである。全員の知恵が経営の上により多く生かされれば生かされるほど、その会社は発展するといえる。」と述べられています。(松下幸之助著『実践経営哲学』PHP文庫)
お二人目は、近畿日本鉄道の中興の祖といわれる佐伯勇氏の、「独裁すれども、独断せず」です。
「一つの決断を下すまでには、あらゆる知恵、衆知を集め、決して独断はしない。しかし、いざ最後の断をくだす際には、これは断乎として会社の最高責任者である私が決裁 する。」
「独裁(ひとりで決裁)はするが、独断(ひとりの考えで決断)はしないことを信条としてきた」と残されています。(一倉定著『経営の思いがけないコツ』日本経営合理化協会出版局)
話は変わりますが、経営コンサルティング業務の中で、このような役回りの社長にとって絶対に必要だなと感じている経営姿勢を二点あげたいと思います。
一つ目は、「決定」に関することです。
一倉定氏は、「優柔不断は、誤った決定よりなお悪い」とし、躊躇逡巡こそ社長の大敵であると警鐘を鳴らしています。決定は、巧遅より拙速の方が大切な場合が多いとも言われています。
日々、多くの難題についての決定を求められるからこそ、経営者は衆知を集め、大きく間違って無かろう判断を適時に下すことの大切さを感じます。
二つ目は、「公私混同」です。
仕事柄、「俺は大変な役割をしているのだから、役得があっても良いじゃないか」と言って、個人的な支出を交際費で処理したり、不正な『領収書』を入手して経費計上するという場面に出くわすことがあります。
しかし、社員さんが社長の公私混同を見つけたら、どう感じるでしょうか。
「社長がやっているなら、俺達だって・・」と言い出したら、社内の規律はどんどん緩んでしまいます。
また、社長が公私混同をしていると社員さんが感じているならば、社長から発せられる言葉の重みは自ずと低くなることでしょう。
経営コンサルタントの小宮一慶氏は、「自分がしようとしている行為を、社員がしても許せるか?を判断基準にしなさい」と述べられています。もし許せない行為であれば、社長自身もしてはいけない、というわけです。
永続・発展できる会社を作るためには、迅速・正確な決定と、公私混同を戒める意志が大切であろうと、私自身、強く感じているところです。
(今回は、私自身への戒めを込めた内容としました。)
(2022年12月あがたグローバル経営情報マガジンvol.71 「今月の経営KEYWORD」に掲載)