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【経営指標】「売上総利益」

2023/05/19

今回も収益性について解説したいと思います。

 収益性分析の中でも最も重要なものは、「売上総利益(=粗利益)」の確認といえます。

 売上総利益は、「売上高-売上原価(商品仕入原価、製品製造原価、工事原価など)」で算出されます。

 

 なぜ売上総利益が最も重要かというと、損益計算書で算出される様々な「利益」の源泉であるからです。言葉を代えると、「お客様からの信任を得て、継続して適正な価格でお買い求めいただいた結果としての売上総利益」こそが、全ての利益の源泉といえます。

 

 売上総利益の分析においては、(1)売上総利益率(粗利率)を高めるべきか、(2)売上総利益の絶対額を増やすべきか、という論点があります。

 この場合、商品(群)毎に計画している利益が確保できているか否かを確認する場合には、「率」の確認が有効です。

 他方、1社で広範な事業を行っている場合や、外注依存度の高い会社、その他資金繰りが重要論点である会社の場合には、「絶対額」の把握を通じて事業戦略面の評価をすることが有効であるといえます。

 

 もう一点大切な論点は、比較をしっかりと行うことです。

(1)前年同月との比較

(2)期首からの累計との比較

(3)月々の推移との比較

をすることで、収益性の傾向を計ることができます。

 経営コンサルタントの一倉定氏は、「会社の中のすべての数字は、必ず『傾向』で見よ」と指摘されています。絶対額の把握の重要性は言うに及ばずですが、「事業経営に最も必要な情報は「傾向」であって、「断面」ではない。」と『一倉定の経営心得』(日本経営合理化協会刊)で述べられています。

 

 さて売上総利益の最大化には、どのように取り組むべきなのでしょうか。

 

 稲盛和夫氏は、「値決めは経営」という有名な言葉を残されています。『経営12カ条』(日本経済新聞出版)には、「値決めはトップの仕事」とし、「価格設定には、経営者の人格がそのまま表れる」とまで言い切っています。

 そして、「お客様も喜び、自分も儲かるポイントは一点」であり、さらに「その一点とは、お客様が喜んで買ってくださる『最高の値段』で値決めをする」ことの大切さを説いています。

 

 また松下幸之助氏は、『商売心得帖』(PHP研究所)の中で、「利は元にあり」として、「利益は上手な仕入れから生まれてくる」と解説しています。

 読み進めると、「安く買い叩く」ということではなく、「良い品をできるだけ有利に適正な値で買う」こと、「仕入先と人情の機微にふれる信頼関係を結ぶ」ことの大切さを説いているところに趣を感じます。

 

 会社経営の本質である、「お客様が求める商品・サービスを、適正な価格でお買い求めいただくことで売上総利益を最大化する」ことこそが、収益性を高める最も基本かつ重要なテーマであると改めて感じるところです。


(2023年5月あがたグローバル経営情報マガジンvol.87 「試算表を読みこなすための経営指標(基礎編)」に掲載)

執筆者

芦原 誠Makoto Ashihara

あがたグローバル税理士法人 代表社員 理事長
あがたグローバルコンサルティング株式会社 代表取締役社長
税理士

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