新将命氏の『王道経営』(ダイヤモンド社刊)の中に、“人間を構成する元素から人間の価格を算定する” という面白い文章があります。
「人間を構成している成分は、体重が60㎏の人で、水40ℓ、アンモニア4ℓ、炭素1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、マグネシウム 50g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、マンガン3g、アルミニウム1g、その他は炭酸ほか13の少量元素だという。これらの重量の元素は、工場出荷額で4,000円程度のものだ。」
経営者は、このわずか4,000円の原価の人間一人一人に対し、人間性を高め、業務スキルを高めさせることで、会社にとってかけがえのない「人財」に育てなければなりません。
「人材」を「人財」にまで成長させるために、経営者は社員のモチベーションを高めることに注力する必要があります。
ただし、この「モチベーションを高める」というのは、休みを取りやすくしたり、ダメなものを良いと言っておだてることや、安易に給料を上げることでもない、ことは言うまでもありません。
経営コンサルタントの小宮一慶氏は、「会社が働く人に与えられる幸せは2つあります。先ずは、働くことそのものから得られる幸せ。次が、経済的な幸せ。この順序を間違えてはいけません。」と説きます。
人は、自分の仕事を通じて、「お客様に『有難う』と喜んでもらうこと」や、「お客様や一緒に働く仲間から必要と頼られること」、「少しでも社会に貢献していると手応えを感じること」は、とても嬉しく感じ、やりがいにもつながります。正に、一所懸命に働くことの「モチベーション」の源泉はここにあると言えます。
「働くことそのものから得られる幸せ」を理解した社員一人一人が成長することと、収益力の高い組織を作ることで「経済的な幸せ」を与えることが、経営者が従業員にできる最大の貢献であるといえます。
『王道経営』にこんな事例が紹介されていました。
「酒屋が2軒あった。両方とも、同じ地域を商圏とし、同じような規模の店であり、販売方法にも違いはない。ある休日の午後3時、『すぐビールを1ケース届けて』と電話が入った。店主は、『有難うございます。さっそくお届けします。』と電話を切ってビールを配達した。」
これだけの前提で、お客様満足を得るお店と、普通のお店があるというのです。
どんな付加価値を付けることができるというのでしょうか?
ちょっと考えてみてください。
1軒は、「倉庫からビールを1ケース取り出して配達した」という至極普通の作業を行いました。
もう1軒の店主は、「店の冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを4本取り出し、ケースの中のビール4本と入れ替えてから配達した」というのです。
つまり店主は、「休日の午後3時に急いでビールを注文するお客様は、ビールを飲みたい人が家にいるからだ。従って、ビールはお客様の家に着いたら、すぐにグラスに注がれることになる。冷えたビールが4本あれば、来客が数人いたとしても、すぐにおいしく冷えたビールを飲むことができる。」と考えたというのです。
こんなエピソードにこそ、お客様に『有難う』と喜んでいただける仕事の実践を学ぶことができます。
このような気遣いができる人は、単なる元素からできている物体としての人ではない証左だと感じるし、右から左へと単純に作業をこなすだけではいけないという教えだと思い、私自身、このエピソードを大変気に入っています。
「働くことそのものから得られる幸せ」を実践できる人財をどのように育てるか、どのように「モチベーションを高めさせられるか」は、経営者にとって、会社の永続と発展に関わる重要課題だといえます。
(2022年3月あがたグローバル経営情報マガジンvol.43
「今月の経営KEYWORD」に掲載)