「経営トピックスQ&A 2024年2月号」掲載
Q.2024年4月から運送、建設や医療などの業界に対しても時間外労働の上限規制が適用されることにより問題が起こると聞いていますが、そもそもなぜ時間外労働の上限規制が必要なのでしょうか?
A.2024年問題とは
働き方改革の一環として、時間外労働の上限が法律に規定され、2019年4月(中小企業は20年4月)から適用されています。一方で、長時間労働の背景に業務の特性や取引慣行の課題がある工作物の建設事業、自動車運転の業務、医業に従事する医師等については、適用が5年間猶予されていました。24年4月1日以降、当該事業及び業務にも適用(一部特例あり)されることにより生じる様々な問題の総称のことを2024年問題といいます。
そもそもなぜ時間外労働の上限規制が必要なのか
時間外労働上限規制の目的は長時間労働の是正です。長時間労働が脳・心臓疾患や精神疾患などの健康障害の発症に大きく関係するということは様々な研究や統計から明らかとなっています。厚生労働省が公表している時間外・休日労働時間と健康障害リスクの関係を示した図1のとおり、1か月の時間外・休日労働が45時間を超えると健康障害のリスクが徐々に高まり、月100時間超又は2~6か月平均で80時間を超えると健康障害のリスクが高いとされており、この水準はいわゆる「過労死ライン」と呼ばれています。

時間外労働の上限(「限度時間」)は、月45時間・年360時間であり、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働含む)、月100時間未満(休日労働含む)とする必要があります。また、月45時間を超えることができるのは、年6か月までです。
つまり、「限度時間」とは、健康障害や過労死のリスクを抑えるために必要な時間外・休日労働の上限時間と言えます。また、「過労死ライン」は睡眠時間に照らして決定されています。例えば月80時間の時間外労働を行う場合の生活パターンでは、図2のとおり1日に確保できる睡眠時間が6時間程度となり、睡眠時間が6時間未満になると、健康障害が起こる確率は高まると言われています。

さらに、脳・心臓疾患及び精神障害の労災支給決定件数の多い業種を見ると、道路貨物運送業、総合工事業(建設業)、医療業が上位となっています。

2024年問題が取りざたされている事業及び業務においては上限規制の導入により様々な問題が生じると言われていますが、全ての業界の労働者が健康で長く働き続けていけるようになるためには、社会全体で働き方改革に取り組み、長時間労働を是正していくことが必要であり、時間外労働の上限規制はそのために必要な施策であると言えます。