「税務トピックスQ&A 2024年5月号」掲載
Q.当社は、M&Aで複数の会社の株式を取得しようと検討しています。そこで令和6年度税制改正により、複数のM&Aを行った場合の優遇税制措置が設けられると聞きました。その概要を教えてください。
A.増加傾向にあるM&A
2023年版『中小企業白書』によれば、中小企業のM&Aは増加傾向にあり、その目的も事業承継だけではなく、売上や市場シェアの拡大、人材の獲得など成長戦略の一つとして捉えられてきています。そのため、複数のM&Aを実施する中小企業も見受けられるようになりました。
ところで、M&Aにより取得した子会社株式は、貸借対照表では資産の部に計上され、原則として、費用化していきません。言い換えれば、配当や子会社との取引による利益により投下した資金の回収をしても、これに対応して計上する費用はないため、投資効率が悪いとみることもできます。
税制による後押し
そこで、令和6年度税制改正により、成長意欲のある中堅・中小企業が、複数の中小企業を子会社化し、グループ一体となって成長していくことを後押しするため、既存の「中小企業事業再編投資損失準備金制度」が拡充されることになりました。この制度は、一定の要件を満たした子会社株式の取得について、その取得価額のうち一定額を損金算入する制度です。
既存の制度
もともと、M&Aにより経営資源の集約化を図る中小企業者等が簿外債務など買収後に顕在化するリスクに備えるために、この制度は設けられました。具体的には、買収による株式の取得価額の70%以下の金額を将来の株式価値の下落による損失に備えて「中小企業事業再編投資損失準備金」として積み立てたときは、これを損金算入でき、5年経過後に当該準備金額を5年間で均等に取崩して益金に算入する課税の繰延制度です。
令和6年度税制改正
令和6年度税制改正により、既存の制度に加え、1件目の子会社株式取得については90%損金算入、2件目以降の子会社株式取得については100%損金算入という新制度が設けられました。
新制度を適用するためには、
①改正産業競争力強化法の特別事業再編計画の認定を受けること、
②その計画に基づいて株式を取得(取得価額100億円を超える金額又は1億円に満たない金額である場合、一定の表明保証保険契約を締結している場合を除く)し保有していること、
③取得価額の90%(2件目以降は100%)以下の金額を準備金として積み立てることが必要です。また、益金算入を開始する期間が、5年経過後から10年経過後に延長されました。
このように課税の繰延効果が一層増したことにより資金繰りに寄与するメリットは大きいでしょう。
さらに、新制度を適用できる法人は、過去5年以内にM&Aを実施したことのある中小企業者等又は中堅企業者(いずれも常時使用する従業員数が2,000人以下の会社及び個人)も対象とされた点も見過ごせません。
余裕を持ったスケジュールで
特別事業再編計画の認定には、準備や事前相談期間を考慮すると、おそらく2~3カ月程度は要すると思われます。従いまして、本制度の適用に当たっては、余裕を持ったスケジュールで臨む必要があります。なお、本稿執筆時点(令和6年3月11日)では、関連法案が成立していませんので、今後明らかになる詳細な法令を確認のうえ、適用をご検討ください。