運送業界の「2024年問題」にどう対応するかが問われています。2024年問題に直接対峙する運送業界の負担増大はいうまでもありませんが、運送業はほとんどの企業に関係しますから、他の業界にも広く影響が及びます。対応次第では、企業の資本効率にも響きます。株式市場では資本効率を重視しますが、2024年問題に対応した資本効率の悪化を一概にネガティヴに捉えることについて、再考の余地があるように思います。
ジャストインタイムを支える物流
在庫を持つことは売上計上のために不可欠ですが、必要以上に保有することは経営上マイナスに作用します。在庫を持てば、資金負担が重くなりますし、物品を置いておく倉庫も必要になることに加え、長期間にわたる在庫保有は減損や陳腐化リスクを抱えるからです。したがって、在庫は少ない方が財務上は効率的です。かといって、在庫を余り絞りすぎると欠品が生じ、売上機会を逃すことや、工場の製造ラインが止まる危険性があります。経営者の手腕は、いかに少ない在庫で売上や製造を伸ばすかにある、といってもよいでしょう。
日本の製造業はその在庫戦略で高く評価されていました。それが「ジャストインタイム」という生産方式です。ジャストインタイムは「必要な物を、必要な時に、必要な量だけ」調達し、できるだけ在庫を圧縮し、経営を効率化する生産・経営方式です。最も有名なのはトヨタの「かんばん方式」であり、この「かんばん方式」がトヨタの効率的な生産体制と高い収益性に大きく貢献しているといわれています。
確かに、ジャストインタイムは企業単体で見れば、合理的です。ただ、ジャストインタムを維持するためにはある一定の条件が整っていなければなりません。それは市場にはいつでも必要な物が存在していることを前提に、所要量を機動的に届けてくれる物流の存在です。企業がジャストインタイムを維持できたのは、運送業界に過重な負担をかけてきたという側面もあったことは否定できません。荷主のニーズを満たすために、小口配送を頻繁に行い、作業現場までの細やかな配送まで行っているケースもあったからです。そのジャストインタイムに必須の要素である物流が、2024年問題で大きな岐路に立たされているのです。
資本効率の悪化をどう捉えるか
2024年問題とは2024年4月以降、トラックドライバーの年間の時間外労働時間の上限が960時間に制限されることから発生する諸問題です。運送業界が2024年問題により、これまで行ってきたような過剰なサービスができなくなると、ジャストインタイムの精密度は下がらざるを得なくなります。運送業界の負担に配慮すれば、在庫は多めに持たなければなりませんし、物品を保有するスペースも必要になりますから、相応の資金負担がかかります。資金負担を手持ち現預金でカバーできなければ、借入金が増えますから、資産、負債が増加することになります。それは結果的に利益の減少を招きますから、ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)は低下することになります。
当然のことではありますが、資本市場は各企業に資本効率の向上を求めます。それに対応し、これまで、企業は資産のスリム化や利益率の上昇に努めてきました。ところが、2024年問題に対応すると、そうした方向性に逆行します。しかし、だからといって、それが間違っているわけではありません。社会の安定性を考えれば、各企業が資本の効率性を犠牲にしても、資産等に余裕を持つことは社会的に望ましいことであるはずです。
効率性のあくなき追求は、社会や市場が安定しているときには、是認されます。しかし、2024年問題のような社会的要請に止まらず、昨今では温暖化の影響による地球環境の限界も議論されており、効率性を犠牲にしての企業行動が求められるケースが増加することが予想されます。そうした企業行動は社会や環境の持続可能性という点では評価すべきものです。その意味から、資本市場もそうした動きをマイナスに捉えるのではなく、応援できるような形の評価基準を持つことが求められているように思われます。