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不正への対応策について

2024/06/14

「経営トピックスQ&A 2024年6月号」掲載


Q.最近、不正事例の報道を目にする機会が多くなっている気がします。不正の発生を抑えるための対応策について教えてください。


A.■不正が発生しやすい状況:不正のトライアングル

 不正が発生すると会社に損害が発生するだけではなく、その不正に関与した役職員の人生も狂わせてしまいます。人間にはどのような人にも“魔が差す”ことはあり得ます。不正は発生しないことに越したことはありませんので、不正が発生しやすい状況を把握し、発生可能性を下げる対策をとることが必要になります。

 不正が発生やすい状況として、「不正のトライアングル」*1理論があります。その内容は、①動機・プレッシャー、②機会、③正当化の3つの要件が揃ったときに不正が発生しやすいというものです。

①  動機・プレッシャー:不正行為を実行することを欲する主観的事情(例:ノルマを達成したい、多額の借金がある)

②  機会:不正行為の実行を可能ないし容易にする客観的環境(例:誰のチェックもない、全て任されている)

③  正当化:不正行為の実行を積極的に是認しようとする主観的事情(例:自分は頑張っているからこれくらいは) 

 上記のうち、機会の低減と正当化の抑止は組織で対応できることがあります。


■不正を防止する方法:機会の低減

 機会を低減するためには、内部統制を強化することが考えられます。現金預金や現物を扱う業務について職務分掌により1人で完結する業務を作らないことや、売掛金の回転期間分析などの経理部や法務部門といった管理部門によるチェック、内部監査による監査などがあります。なお、この体制はスリーラインモデルともいわれています。

 また、業務のリスクそのものを無くす対応もあります。これはリスクの回避と言われる対応であり、例えば売掛金の回収方法について現金回収をやめ、口座振込のみにすることで、現金横領の機会はなくなります。


■不正を防止する方法:正当化の抑止

 正当化を抑止するためには、「不正はさせない、許さない」という組織風土の醸成が有効です。そのためには経営者が率先垂範する必要があります。いくら「不正は許さない」と経営者が発信をしていても、「自分だけは例外」という意識や行動をしていては、従業員は「所詮口だけ」という意識となり、適切な組織風土の醸成はできません。


■オーバーライドへの対応

 内部統制は経営者が構築するものであるため、経営者自らが内部統制を無効化することが可能です。このことを経営者によるオーバーライドと言います。経営者によるオーバーライドの例としては、日産自動車の元名物社長や、東芝の「チャレンジ」を思い起こしていただければイメージができるかと思います。

 この経営者のオーバーライドへの対応はコーポレート・ガバナンスの強化が必要です。取締役会や監査役による経営者への監視強化となります。


■業務の効率性との比較衡量

 機会を低減するための内部統制の強化は業務の有効性を高めますが、効率性は低下します。そのため、有効性と効率性のバランスをとった体制整備が必要となります。不正が発生する可能性と発生した際の影響と、内部統制を強化した場合のコスト等を比較衡量し、適切な水準で内部統制を構築することが必要になります。

 なお、自社だけでは何をどのように実施すべきか不安がある場合には、公認会計士や公認不正検査士などの専門家にご相談することをご検討ください。


*1:アメリカの犯罪学者であるドナルド・R・クレッシーにより提唱された理論

執筆者

鮎澤 英之Hideyuki Aizawa

マネージャー・公認会計士・公認不正検査士

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