中小企業からグローバル企業まであらゆる経営課題に解決策を

世代間対立を招く確定給付型企業年金

2012/11/29

AIJの年金詐欺事件を契機に、企業年金基金をどうするかが大きな社会問題になっています。企業年金基金は公的年金とは別に、企業が退職した従業員に支給する年金の一種ですが、長引く不況の中で、確定給付型企業年金そのものの存在意義が問われている状況です。

運用リスクを誰が引き受けるのか
企業年金には退職後の給付を確定している確定給付型と、現役時代の拠出額のみを確定し退職後の給付は変動する確定拠出型の2種類があります。年金は資金を拠出してから実際に受け取るまでに長期間かかりますから、その間資金を運用しなければなりません。運用がうまくいけばいいのですが、予定通りにいかない場合もあります。確定給付型と確定拠出型の最大の違いは、予定通りにいかないときの運用リスクを誰が引き受けるのか、という点にあります。運用リスクを従業員個人が引き受けるのが確定拠出型であり、企業が引き受けるのが確定給付型です。企業年金基金は確定給付型の年金です。

年金資産運用利回りと企業収益の低下
バブル崩壊以降デフレ傾向が続いています。政府や日銀はデフレ脱却を唱えていますが、一向にその効果が見えません。20年近くデフレ状態だというのは経済の様相が変わってしまったと考えるべきなのでしょう。
デフレでは株価や金利は低迷しますから、金融資産運用において高い利回りを確保することは難しくなります。確定給付型年金では、資産運用がうまくいかないときに生じる不足分は企業が負担しなければなりません。企業の業績が良ければ、年金不足分の拠出は容易です。しかし、デフレ下の経済では売上が増えませんから、企業収益も低迷します。その中で確定給付型の年金水準を維持するとすれば、これから厳しくなる環境で働いて稼いでもらわなければならない現役従業員の給与を削りながら、悠々自適に(?)暮らす退職者に限られた企業財源を振り向けざるを得ない事態に追い込まれます。

現役と退職者の対立
退職者とすれば年金の対価としての労働は既に提供済みであり、一時金としてもらうこともできた自分の資産を年金という形で受け取っているだけなのですから、約束された年金額を受給するのは当然の権利だと考えます。しかし、現在働いている現役の従業員からすれば、労働の負荷はますます重くなり、私生活においても育ち盛りの子供を抱え生活費が増加するのに、退職者の年金を維持するために自分の給与を減らされるのは釈然としません。
経済が成長し、配分できる財源が増えるなら、増えた財源を現役と退職者で分配すればいいのですから、話は簡単です。しかし、経済全体のパイが増えないデフレ環境下においては、確定給付型年金は限られた財源の奪い合いになり、深刻な世代間対立を引き起こします。

人の寿命は長くなり、企業の寿命は短くなる
医療の進歩は人の寿命は引き延ばします。これから退職する人は百歳まで生きることも不思議ではない時代が到来し、働いている期間より年金をもらう期間の方が長くなる人も増えてきます。一方、時代の変化は激しく、一昔前の優良企業が瞬く間に存亡の淵に立たされる事例が相次いでいます。どんな優良企業でもその寿命が人間の寿命より長いとは断言できません。企業が人間の生涯にわたる保証を行えると考えるのは、企業の傲慢なのかもしれません。
残念ながら、退職後の経済保証をかつて所属した企業に求めることができる時代は終わってしまったのだと認識しなければなりません。運用の自己責任が一層重要になります。

執筆者

最新の記事