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金融政策における「ひも理論」

2013/12/03

アベノミクスの中心は何といっても金融緩和政策です。金融緩和政策の中核には日銀がいますが、日銀だけでは金融政策は完結しません。金融政策が機能するには銀行が有効に働かなくてはなりません。

銀行は日銀と実体経済をつなぐパイプ

金融政策は日銀がマネーを操作することにより経済を活性化させようとするものですが、困ったことに日銀は実体経済に直接手を入れることはできません。金融緩和政策というと、日銀が紙幣輪転機をフル回転させ、刷り上がった紙幣を民間にばらまけばいいという風に表現されますが、日銀が実際に行うのは日銀に当座預金口座を持つ銀行などの民間金融機関との金融取引に過ぎません。日銀は銀行が所有する国債を買い上げ、銀行の日銀当座預金口座にカネを潤沢に供給しようとします。銀行は日銀当座預金にカネを置いておいても、金利は稼げませんから、その分の資金が貸し出しに向かい、市中にカネが出回り経済が活性化するというのが、日銀が意図しているところです。
資金不足時代の伝統的な金融政策
1980年代までは、金融政策は金利政策でした。今のスズメの涙ほどの預金金利からは信じがたいことですが、当時は預金にも恥ずかしくない立派な金利が付いていました。金利が付いていたのはマネーに希少価値があったからであり、経済活動のボトルネックはもっぱらマネーでした。経済全体が成長し、巷に資金需要があふれていましたから、資金さえ調達できれば、設備投資を行い、生産量を増やし、売上と利益を増加させることができたのです。企業の財務的課題は設備資金や運転資金を確保することにありました。
経済全体が資金不足でしたから、銀行も資金を日銀から借りなければなりません。そのため、日銀が銀行に貸し出す際の金利である公定歩合の動きが重要でした。公定歩合を下げれば、銀行の貸出は増え、実体経済は活発化し、逆に上げれば、経済を引き締めることができたのです。日銀と実体経済をつなぐ銀行は、パイプ役として有効に機能していました。
銀行の機能低下
ところが時代が変わります。経済は成熟し、企業の資本蓄積は進み、上場企業では2012年度末で52%の企業が実質無借金(現金預金+短期保有目的の有価証券>有利子負債)となり、調査開始以来初めて半数を超えました(2013年6月2日付日本経済新聞)。この調査は上場企業のものですが、非上場企業でも方向性は変わりません。マネーの希少性は薄まり、マネーの価格である金利はゼロに限りなく近づきます。もはや経済活動のネックはマネー不足ではなく、実物の需要不足です。同時に資金提供機関としての銀行の役割も縮小しました。つまり、日銀と実体経済をつなぐ金融政策におけるパイプ役としての機能が失われてきたのです。銀行に経済を動かすようなかつてのような力は既にありません。にもかかわらず、銀行にかつての力を期待して、日銀の当座預金口座に必死にキャッシュを注ぎ込んでも、その効果は期待できないのではないかと私は思っています。
押しても効果がないひも
金融政策の用語に「ひも理論」というのがあります。ひもは引っ張る時には力を発揮しますが、押してもさっぱり効果はあげません。異次元の金融緩和政策はこちら側でひもを一生懸命押しているだけのように思います。大切なのはひもの向こう側にある引っ張る力です。それを作ろうとするのがアベノミクスの第3の矢ですが、その力が弱々しくなっているのが気がかりです。

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