日産自動車のゴーン元会長の逮捕は、大企業にとどまらず中小企業においても、会社のガバナンスを考え直すいい機会にすべきだと思います。ゴーン元会長の行為が犯罪にあたるかどうかは、これから司法の場で決することであり、ここで論評するつもりはありません。ただ、ゴーン元会長に、法律的にはともかく、経営者として倫理観に欠ける行為があったことは間違いないようです。経営トップの倫理観に疑念が生じたとき、会社のガバナンスがどのように機能するかが問われているのだと思います。
上場企業のガバナンス体制も疑問
近年、主として上場企業においてガバナンス体制の構築が急ピッチで進められてきました。その柱は取締役会の活性化です。従来、ともすれば形式的になりがちであった取締役会を実質的に機能させ、社会的公正さを維持しながら経営効率の向上を図ろうとするものです。その際、取締役会が社内出身者だけで構成されていたのでは、議論が内向きになるだけではなく、人事権を握るトップに反論することは難しいだろうということもあり、社外役員の参加を義務付けました。日産自動車でも当然、複数の社外取締役や社外監査役が存在しています。
報道によれば、ゴーン前会長の公私混同の事実は社長以下の幹部はつかんでいたようです。会社のガバナンスという見地からいえば、そうした事実があれば取締役会で議論し、前会長の反論を聞いた上で、その解任を取締役会で決め、その後に法律に違反する行為があれば、法的機関に告発するというのが筋です。
ところが、華々しい事業実績を有し、強力な人事権を持ち、20年近くにわたり君臨するゴーン前会長を前にすると、社内の取締役は言うに及ばず社外取締役も自由に発言できなかったというのです。そこで、会社側は検察と司法取引を行い、ゴーン前会長の逮捕を先にしてもらい、ゴーン氏不在の取締役会で前会長の解任を決めました。これでは、会社のガバナンスが有効に機能したとはいえません。
中小企業ではトップの自覚がより重要
このことからわかることは、日産自動車のような日本を代表するグローバル企業においてさえ、トップの暴走を抑止するガバナンス体制の構築は容易ではないということです。では、ひるがえって非上場の中小企業の場合はどうでしょう。
非上場の中小企業では、トップの在任期間は長期にわたるのが普通ですし、人事権も大企業より恣意的に行使できるでしょう。その上に株式も実質的に支配しているとすれば、非上場企業のトップの存在感は圧倒的です。そうしたトップの倫理感に問題が生じたときに、取締役会等の会社組織で抑止力を働かせることができるでしょうか。
非上場企業でも社会的公正さが求められることは変わりません。トップの暴走に歯止めを効かすガバナンス体制が社内で構築できれば、それに越したことはありません。しかし、日産自動車の事例を見れば、非上場企業でそれを実現することはかなり難しいことだと思われます。社内で抑止体制が構築できないとすれば、トップ自身が歯止めにならなければなりません。
そのように考えると、非上場企業のトップの倫理観は大企業以上に重要になってきます。倫理観のない人間をトップに据えることは避けるべきですし、現在トップにある人間はそのことを十分自覚しなければなりません。