「移転価格」でネット検索すると、いくつかの記事が把握されます。最近では、良品計画の更正所得金額70億円、IHIの更正所得金額100億円、日本碍子の追徴税額85億円などが散見されます。いずれも多額です。
1.新聞報道について
(1) 良品計画
新聞報道によれば、良品計画は、日本親会社と中国子会社との間の、商品の取引価格や商標権の使用料を東京国税局から問題視され、70億円の移転価格課税を受けたとされています。
良品計画は、2020年3月18日付けニュースリリース「移転価格課税に関する一部報道について」において、次のとおり発表しています。
2015年2月期から2017年2月期までの3年間における当社と中国子会社との取引について、東京国税局より移転価格課税に基づく更正通知を受領し、追徴課税を課されることとなりました。本件について、一部で報道されておりますが、当社の見解を以下のとおりお知らせいたします。
当社は、グループ会社間の取引の価格設定に係る税務、いわゆる移転価格税制への対応につきまして、外部の専門家の助言を受けながら、当社内でのルール整備を行うなど、これまで日本並びに各国の法令を遵守し適切な取引価格となるように取り組んでまいりました。よって、中国子会社との取引も法令に従い適切な条件で行われ、また、当社および中国子会社は、日本、中国のそれぞれにおいて、適切な納税を行ってきたと認識しております。東京国税局には当社としての移転価格の考え方を説明してまいりましたが、当局との見解に相違があり、その解消は難しい状況にありました。当社として様々な対応策を検討してまいりましたが、今後、中国事業において、納税の法的安定性を確保した上で二重課税の再発を回避することを優先するために、日本、中国それぞれの税務当局に対し、二国間協議の手続きを申請する判断をいたしました。この手続きに入るためには、過去の課税額について争議が終了し、支払い済みとなっている必要があったことから、今回の二重課税分については、見解の相違はあるものの支払うことといたしました。すでに日本、中国それぞれの税務当局に対し、二国間協議の申請を済ませております。
(2) IHI
IHIは、タイ子会社との取引を巡る税務処理で、東京国税局から約100億円の移転価格課税を受けたとされています。
IHIは、「2019年3月期第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」において、次のとおり発表しています。
(移転価格税制に基づく更正処分と今後の対応方針について)
当社は,平成25年3月期から平成28年3月期までの事業年度におけるタイの在外連結子会社との取引に関し,東京国税局より移転価格税制に基づく更正処分を受け,加算税及び延滞税を含めた追徴税額4,304百万円を「過年度法人税等」に計上しました。なお,当該追徴税額については平成30年7月に納付済みです。
当社としましては,グループ会社間の取引の価格設定に係る税務,いわゆる移転価格税制への対応について,日本並びに各国の法令等を遵守し,適切な取引価格に基づき,適正な納税を行なってきたと認識しています。今回の更正処分に対しましては,処分の全部取り消しを求めて,法令に則り必要な措置を講じていく予定です。
(3) 日本碍子
日本碍子は、ポーランド子会社との取引に関して、名古屋国税局から移転価格課税されたようですが、その後の取消訴訟において一審、二審で勝訴しています。
日本碍子は、2023年5月30日付けの「第157期定時株主総会 その他の電子提供措置事項 (交付書面省略事項)において、次のとおり発表しています。
移転価格税制に基づく更正処分等に対して提起した取消訴訟について
当社は、2011年3月期から2015年3月期までの事業年度におけるポーランド子会社と当社との取引に関し、2017年6月に名古屋国税局より移転価格税制に基づく更正処分等を受け、地方税を含めた追徴税額約85億円を納付しましたが、処分等の取消しを求め、2018年7月に名古屋国税不服審判所へ審査請求を行い、2019年7月に当該処分等を一部取り消す旨の裁決書を受領しました。しかしながら、この段階では法人税及び地方税額等約4億円の還付に止まったことから、当社としては全額が取り消されるべきと考え、2019年12月に東京地方裁判所に対して当該更正処分等の取消訴訟を提起しました。
その後、2022年10月に、名古屋国税局より、当該更正処分等を減額再更正する内容の法人税額等の更正通知書を受領しました。これに伴い、当連結会計年度において還付税金約77億円を法人税等還付税額に計上するとともに、これに係る還付加算金を営業外収益の法人税等還付加算金に計上しております。なお、当社は、当該減額再更正処分により納付済みの追徴税額の相当部分が還付されること等を総合的に考慮し、当該取消訴訟を取り下げました。
2.報道に接して
良品計画及びIHIは、国外関連者との取引価格については、日本並びに各国の法令を遵守し適切な取引価格となるように取り組んできたにもかかわらず、税務当局との見解の相違により課税を受けたと説明しています。日本碍子については、直接そうした説明はありませんが、課税の全額取消しを求めて訴訟したことを踏まえれば、同様に、日本並びに各国の法令を遵守し適切な取引価格となるように取り組んできたにもかかわらず、移転価格課税されたのだろうと想定されます。
いずれの法人も、適切な取引条件で取引していたにもかかわらず国税当局との見解の相違になどによって課税された事実などついて、言葉を選びながら丁寧に説明しています。移転価格についてはどんなに周到に準備していたとしても、税務当局から課税されるリスクはあります。一旦課税報道が世の中に出ると、火消しをするのは大変です。火が出ないように事前の予防が大事です。準備は怠りなきようにしたいものです。