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「生産者目線から生活者目線に」

2023/10/04

 個人の経済活動は2つの要素に分けることができます。一つは生活者としての消費活動であり、もう一つは生産者(企業で働く労働者)として、消費活動を行うための原資を稼ぐ活動です。

 生活者としての活動と生産者としての活動は関連しています。生活者が活発に消費すれば需要が拡大し、生産者である企業の売上と利益は増加します。そして、企業利益が増えれば、労働者の賃金が増加し、生活者としての消費活動も活性化します。このようにして、両者が相互に連動しながら経済が成長し、豊かな個人生活を実現させていくのが理想です。

経済の低迷が続くと、その低迷を打破するために経済政策が必要になりますが、政策の方向性が生産者目線と生活者目線で相反することがあります。そうした場合、どちらに重点を置くかの選択を迫られます。

 

生産者目線の経済政策

 従来、我が国は生産者目線からの政策を重視してきました。まず、生産者である企業が利益を上げることを優先し、そこから企業で働く労働者の賃金が上昇し、その結果、生活者である個人の消費活動が活性化するという順序での、経済の好循環を目標にしてきたのです。

こうした生産者目線の経済政策は、かつてはうまくいっていました。企業利益の増大はそこで働く労働者の賃金の増加を招き、内需が拡大し、さらに企業利益の拡大を呼び込んだのです。ところが最近は、かなり様相が異なってきています。

 

相反する金利と為替

 生産者目線(企業)と生活者目線(個人)の利益が相反する項目として、金利と為替が挙げられます。企業も個人も個別には多様ですが、概括すると経済的には次のようにまとめることができます。資金的には、個人は貯蓄超過主体であり、企業は銀行を通じてその余剰貯蓄を借入れ、設備投資等に使います。そのため、個人は受取利息が増える高金利が望ましいのに対し、企業は支払利息が減る低金利を望みます。貿易面では、個人は輸入品を購入し消費しますが、製造業を主体とする企業は輸出により稼ぎます。ですから、個人としては輸入品が安くなる円高が望ましいのに対し、輸出企業は受け取る円価額が多くなる円安を望みます。

 したがって、不況打開策として、生産者目線を重視すれば、低金利で円安に誘導することが求められる政策となります。その意味で、アベノミクスは典型的な生産者目線の経済政策でした(税制において消費税を引き上げる一方、法人税率を下げたのもこの路線の延長線上にあるといえます)。この生産者目線の政策が許容されるためには、増加した企業利益が最終的に労働者の賃金に還元されることが必要です。というのは賃金が増えなければ、生活者としてはマイナスになる低金利と円安をそのまま引き受けなければならなくなってしまい、個人の生活はより一層苦しくなってしまうからです。

近年は、生産者目線の政策により、企業利益は増加し、内部留保は増えたのですが、肝心の労働者の賃金への振り替えが思惑通り進んでいません。

 

なぜ、賃金を増加できないのか

 なぜ、企業は増加した利益をかつてのようにストレートに賃金増加に結びつけられないのか。それには以下の3つの理由が考えられます。

 一つは、将来の継続的な利益増加に対する自信のなさです。高度成長時代は将来の売上・利益の増加は自明のものととらえられていましたから、賃金を増加させることに躊躇はありませんでした。ところが、現在は人口減少や地球資源の限界といった周辺環境の制約もあり、利益増加の永続性に自信が持てません。また、賃金は下方硬直性が高いので、将来が保証されていない一時的と思われる利益増加に対して、企業は安易に賃金増加に踏み切れないのです。

 二番目は、株主に対する還元です。持ち合い株式が多かった時代は株主の意向をさほど気にする必要はありませんでした。しかし、昨今はグローバル化の進展に伴い、株主からの要請は強くなり、それを無視できなくなっています。増加した利益は株価の上昇や株主還元に一層配意しなければならなくなっているのです。

 そして最後に、日本では雇用維持の実質的責任が企業に課せられている実態がありますから、将来の雇用維持のために、賃上げには慎重にならざるをえなくなる傾向があります。

 

生活者目線政策の必要性

 我が国では、過去の華々しい成功体験から、経済政策といえば生産者目線からのものという思い込みが強いように思います。しかし、企業の利益向上が労働者の賃金増加に反映されにくくある現状を鑑みると、生活者目線からの経済政策をもう一度見直してもよいのではないかという気がします。

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