「経営トピックスQ&A 10月号」掲載
Q.がんと診断された従業員から、治療を行いながら仕事を続けたいがどうしたらよいかとの相談がありました。会社としてどのように支援を進めていけばよいでしょうか。
A.従業員ががんにかかる時代
日本人のおよそ2人に1人が生涯に1度はがんにかかると言われています。2019年には約100万人が新たにがんと診断されており、そのうち24万人超が就労世代(15歳~64歳)で占められています。世論調査(2016年度)の結果では、がんを「こわいと思う」と回答した者の割合は72%で、その理由として「がんで死に至る場合があるから(72%)」を挙げる者が最も多くなっています。このことが影響してか、がんと診断された者のうち20%弱が退職・廃業しています。がん治療と仕事の両立支援にあたっては、国立がん研究センターのガイドブックに記載された「がんの支援で心がける7カ条」が参考になります。
●本人の気持ちに寄り添い話し合う
第1条「社員の気持ちに寄り添う」
がんと診断された従業員はショックを受け、精神的にかなりつらい状況にあると考えられます。「がんにかかったら仕事を辞めなくてはいけないと思うか?」の問いに対し4割近くが「そう思う」と回答しています。大切なのは、本人の気持ちに寄り添い、受け止めることです。
第2条「本人の意向を確認し、話し合う」
退職の申出があった場合には、慰留したほうが良いでしょう。退職はいつでもできますし、治療の継続には経済的負担も軽くはありません。本人の意向を確認し、社内外で利用できる制度や相談先の情報を提供することで、従業員の不安がやわらぎ、治療と仕事の両立の助けとなるでしょう。
具体的な措置や配慮をどうするかについては、産業医や産業保健スタッフ、主治医と連携して「両立支援プラン」を作成し、計画的に支援することが有効です。産業医や産業保健スタッフがいない場合には、各都道府県の産業保健総合支援センターに相談することができます。また、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターは患者でなくても利用でき、会社の人事担当者からの相談も受け付けています。
●正確な情報を基に行動する
第3条「がんのイメージに振り回されない」
医療の進歩によりがんは治る、もしくは長期にわたり安定状態が期待できる病気になってきたとされています。ネット上ではセンセーショナルな情報が目につきやすいものですが、公的機関等の信頼できるサイトで調べたり、主治医や看護師に確認して正確な情報を入手し、がんの一般的なイメージに振り回されないことが大切でしょう。
第4条「状況の変化に柔軟に対応する」
治療の進み具合や本人の心理的な変化により、状況は変化していくため、これに柔軟に対応することが必要になります。
第5条「個別性を考慮する」
同じがんの種類で同じステージであっても治療方法や副作用の現れ方は異なることが少なくないと言われます。がんの種類やステージが異なればなおさらです。本人との話し合いを通じて適切な配慮をすることが求められます。
●周囲との関係への配慮
第6条「個人情報の取り扱いに気をつける」
がん治療と仕事の両立支援には、周囲の理解が必要です。誰にどのような情報をどこまで開示するかは、本人と話し合いながら慎重に判断することが必要となります。
第7条「周囲の社員への配慮も忘れない」
「○○さんだけ特別扱い」という不公平感や、特定の従業員に負担がかかりすぎると不満が出やすいものです。がんにかかった従業員だけでなく、上司や同僚への支援も心掛けることが大切です。