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あがたグローバル社会保険労務士法人船井総研 あがたFAS

M&Aの買い手のリスクヘッジ

2022/05/01

経営トピックスQ&A 5 月号


Q.当社は、M&Aで他社の株式を取得しようと検討していますが、できるだけ買収に係るリスクを回避したいと考えています。何か手立てはあるでしょうか?


A.買い手のリスク

 2021 年版『中小企業白書』によれば、買い手がM& Aを実施する際の障壁として、「期待する効果が得られるかよく分からない」「判断材料としての情報が不足している」といった点が挙げられています。確かに、M&Aには買収対象会社の将来性やコンプライアンス、簿外債務等のさまざまなリスクが伴います。通常、こうしたリスクはデューデリジェンス(以下「DD」)を行い、株式譲渡契約書に表明保証条項を織り込むなどして軽減させます。

 しかし、DDには一定の費用が掛かりますし、表明保証条項も抽象的であることから、その適用には限界があるといわれています。


税制による後押し

 そこで、M&Aにより経営資源の集約化を図る中小 企業者等が簿外債務など買収後に顕在化するリスクに 備えるための制度が設けられました。具体的には、買 収による株式の取得価額の 70%以下の金額を将来の 株式価値の下落による損失に備えて「中小企業事業再 編投資損失準備金」として積み立てたときは、これを 損金算入でき、5 年経過後に当該準備金額を 5 年間で 均等に取崩して益金に算入される課税の繰延制度です。なお、買収後に簿外債務が発覚するなどして減損や株 式売却等を行った場合にも当該準備金は取り崩すこと とされています。

 この制度を適用するためには、①DDを実施し、経営力向上計画の認定を受け、②その計画に基づいて株式を取得(取得価額10 億円以下に限る)し保有していること、③取得価額の70%以下の金額を準備金として積み立てることが必要です。

 経営力向上計画の申請から認定までは 30~45 日ほどかかるため、余裕を持ったスケジュールでM&Aを進める必要がありますが、課税の繰延効果により資金繰りに寄与するメリットは大きいでしょう。


補助金の活用

 DDは、経営実態を把握すること、簿外債務やコンプライアンス違反を発見し、それを買収価額や買収条件に反映させること等の目的で行われる重要な手続きです。しかし、一定の費用が掛かることから、DDの実施を躊躇して、リスクを飲み込んで買収を進めるケースも散見されます。そこで、DD費用の一部や後述する表明保証保険の保険料の一部を補助する「事業承継・引継ぎ補助金」の活用が検討に値します。

 補助金の性格上、必ず採択されるわけではないこと、公募時期が限られていることから、使い勝手は必ずしも良くありませんが、有効に活用できるのでしたら、費用負担を軽減できます。


表明保証保険の利用

 近年では、買収後に売り手の表明保証条項の違反により買い手が損害を被った場合に補償されるM&A保険も販売されています。従前は大型M&Aのみが対象でしたが、近年では中小規模案件にも適用される保険が販売されていますので、リスクの度合いに応じて活用したいものです。


買収した後が大切

 数多くのM&Aを実施してきた日本電産会長の永守重信氏は、M&Aの成功のカギを握るのは買収後の施策であり、経営者はその施策の実行に8 割の力を注ぐべきだと述べています。本稿で紹介した手立てを活用してリスクを抑えたM&Aを実施し、買収後の施策の実行に注力していただきたいと思います。

執筆者

多賀谷 博康Hiroyasu Tagaya

税理士・米国公認会計士(inactive)

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