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就業規則の周知と効力

2023/07/12

                                                                     「経営トピックスQ&A 7月号」掲載


Q.就業規則を改定しましたが、改定後の就業規則を従業員に公開していませんでした。

  この場合、従業員に対し、改定後の就業規則の内容を適用できますか。


A.■就業規則に関する義務

就業規則が適切に「周知」されていない場合、その効力が否定される場合があります。

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成する義務があります。また、就業規則の作成・変更にあたっては、労働者代表から意見を聴いたうえで、所轄労働基準監督署へ届出し、労働者へ周知する義務があります。

「周知」義務について最高裁では、「就業規則が拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。」(フジ興産事件・最二小判平15.10.10)と判示しています。

就業規則によって労働条件を規律するためには「周知」されていること、つまり、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことが必要です。

■就業規則の「周知」とは

使用者は就業規則を、①常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける、②労働者に書面を交付する、③磁気ディスク等に記録した内容を常時確認できる機器を設置する、のいずれかの方法によって周知しなければならないとされています(労基法106条1項、労規則52条の2)。

就業規則の周知性が肯定された裁判例として、従業員が出入りする事務室にある無施錠のキャビネットに就業規則が備え付けられていた事案(富士運輸事件・東京高判平27.12.24)、背表紙に「就業規則」と明示されたファイルに就業規則が格納され、従業員が立ち寄る営業所の机や棚に置かれていた事案(東京エムケイ事件・東京地判平29.5.15)、従業員がいつでも開閉することができる事業所内の入口付近のキャビネットに就業規則を備え置き、保管場所を会議で告知したり、社内研修において就業規則の内容についても説明していた事案(アートコーポレーション事件・横浜地判令2.6.25)などがあります。

■「周知」したとはいえないケース

従業員が閲覧することが不可能または困難な状態にあれば、「周知」したとはいえないと認定されるリスクがあります。たとえば、「施錠された金庫に保管してある」、「社長室に置いてある」等、事実上、従業員が閲覧することが不可能な状況であるほか、就業規則をパソコンの共有フォルダに電子ファイルで保存をしていても、従業員に対して就業規則が保存されている場所やその内容を確認する方法について説明していなければ、当該就業規則は「周知」を欠き、従業員に対し効力が及ばないとした裁判例(アクトプラス事件・東京地判平31.3.25)もあります。

■結び

このように「周知」とは、従業員が就業規則の内容を確認しようと思えばいつでも確認できる状態にしておくことに加え、保管場所や確認方法を説明しておくことが重要です。また、雇用形態ごとに正社員用、パート・アルバイト用で複数の就業規則を作成している場合、誰にどの就業規則が適用となるかを明確にし、対象の従業員へ説明しておくことや、就業規則をより有効なものとするために、改定した際は従業員へ改定後の就業規則の内容を「周知」するだけでなく、変更点についても説明しておくことをお勧めします。

なお、就業規則の「周知」を怠った場合、その就業規則の効力が否定されるだけでなく、30万円以下の罰金が科せられることになります。

執筆者

長岡 志保Shiho Nagaoka

特定社会保険労務士

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